第3話 ~助け人~不思議な青年
あの悪夢のような夜から数日が経ち。サリュナは途方に暮れていた。
食事に関しては案外なんとかなった。豊かな森が育んだ美味しい木の実や果物が豊富にあり、更にその身体能力を使って小動物を狩ることを覚えたためだ。
身体が変質したためか、味覚もやや獣寄りになったようで、生肉も平気で食べることが出来た。
最初は複雑な心境になったものだが、背に腹はかえられぬ。
では、何に困っているのかといえば。
人にまともに取り合って貰えないのである。
当たり前といえば当たり前だ。
元々人間であったとはいえ、今の自分はどこからどう見ても異形である。まともに取り合うどころか、避けられ恐れられる。
石を投げられるのはいい方で、最悪魔物として狩られそうにもなった。
これでは情報収集もままならない。
さて、どうしたものか……。
「そこの美しいお嬢さん、なにかお困りかな?」
唐突にかけられた声に咄嗟に反応出来ず。
そもそも今の自分を美しいなどと表現する人間などいるわけがない、と思うも、辺りは人気のない町外れ。声の主と自分以外に誰もいない。
「驚かせてしまいましたか?
――!
「私、のことでしょうか?」
サリュナは恐る恐る返事を絞り出す。
「他に誰がいるんです?」
ふふ、と優しく微笑んだ声の主は、取り立てて美男という程でもないが、それなりに整った顔立ちの青年だった。柔らかい声は耳に心地よく、楽器を携えているところを見ると旅の吟遊詩人だろうか。
「そんなに警戒しないでください、僕はただ、困っている人を見捨てられない性分なんです。」
「……こんな私を、人と呼んでくれるのですか?」
「もちろんです。この大陸では獣人は珍しいようですが、私の故郷にはたくさんの獣人が住んでいましてね。彼らの国もあるくらいですよ! 総じて人からはまだ差別されるのが常ではありますが、彼らも立派な人間です。もちろん、貴女も。」
その言葉を聞き終わらないうちに、サリュナの目から大粒の涙がとめどなく溢れた。
「これは失礼、女性を泣かせるつもりはなかったのですが」
謝る青年に泣きながらぶんぶんと顔を横に振ってみせる。
この姿になってから初めて人として扱って貰えた、ただそれが嬉しかった。
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