呪い解き«まじないほどき»~月華の獣人(けものびと)~

かなた

プロローグ 祝いの鐘が鳴り響く街で

 森と湖に囲まれた美しき街、アルーナ・ディエス。

 エルトリア大陸随一の観光大国、ヴィエリアスの片田舎でありながらも、豊かな自然と領主の住む古城の佇まいが人気の観光名所である。

 首都から程よい距離にあることもあり、街道も整備され、手軽に訪れることができるのが最大の魅力といえる。


 今日、その街はいつに増して賑やか。街道に立ち並ぶ商店には至る所に花が飾られ、街灯には2つの家紋入りの赤い旗がかけられていた。


 それらはこの街の主、シャリアール公の長子カルハジェルと隣町の領主の娘であるサリュナの婚礼の儀の最中であることを示している。


 元々は貴族のご多分にもれず政略結婚だったはずなのだが、お互いに隣町の幼なじみでもあり、気づけば自然に想い合う仲になっていた。

 両家はそれぞれの領地を正しく治め、領民からの人気も高く、隣町としての交流も深かったため、両家の親族のみならず、それぞれの領民たちも心から祝福し、夫婦になる2人の末永い幸せを祈るのだった。


 ――そんな街中の祝福と祈りをよそに、それは起きた。


 運命の歯車は廻る

 幸せな2人を嘲笑うかのように……

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