第1話 妖しき呪(まじな)い、そは苦難の始まり

 盛大な式を終え、カルハジェルとサリュナは2人のために新たに用意された古城の一室で幸せの余韻に浸っていた。


「ねえ、カルハジェル……本当にこんな日が来るなんてなんだか信じられないけど。私、とっても幸せよ」


 窓の外、空と湖に映る2つの月を眺めながらサリュナが頬を染める。


 湖畔から眺める城と森は絶景だが、城のこの部屋から見るこの月こそ最高の眺めであった。


 カルハジェルはそんなサリュナに優しく口づけし、何か優しい言葉をかけ、初夜の契りを交わす…


 はずだった。


 そう、そのはずだったのに。


 優しい言葉をかけたいのに、実際に口から出たのは恐ろしい呻きともつかない呪詛だった。


 カルハジェルは混乱した。

 自分が自分でなくなる、そんな感覚。

 誰かに操られているのかもしれない、けれどどんなに抵抗しても呪詛は止まってはくれなかった。


 恐怖に引き攣るサリュナを抱き寄せて、安心させたいのに。


 長いようで短いようなその呪詛が止まり、カルハジェルが体の自由を取り戻した時……


 サリュナの姿はどこにもなかった。


 ただ、獣のような気配が疾風の如く窓から飛び出して行ったのを見た気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る