第19話 ~惜別、そして帰路へ~静かなる決意
翌朝。
ザルドローグの入口で、レイと虎の獣人、そしてキャラバンがサリュナとトーヴァンを待っていた。
「おはようございますう! サリュナさん、トーヴァンさん、よく眠れました?」
「レイさん、そちらの方は……?」
「あ、紹介が遅れました、アクスって言いますう。ええと、その、私の……」
言い淀むレイの言葉を引き受けるように、アクスが口を開く。
「俺はアクス。レイの婚約者だ。」
「ええーーー?!」
トーヴァンとサリュナが声を揃えて驚く。
「って言ってもまだプロポーズの返事聞いてないんだけどな。」
そう言って照れ笑いする。
「返事なら、今しますよっ!その……不束者ですが……よろしくお願いしますう!」
おおー!!
一同がどよめき、
「というわけで、私はこの街に残りますう! サリュナさん、トーヴァンさん、ご無事で!! サリュナさんが本当の姿、取り戻せるようお祈りしてますう!!」
――はぁ、本当はお2人を見送ってからにするつもりだったんですけどねえ。
「レイさん、良かったね!! 幸せになってね!!」
「今までありがとう!! 幸せに!!」
2人の祝いの言葉を皮切りに、キャラバンからも祝福の言葉がかけられ、未来の夫婦は照れながらも感謝を述べる。
そして
「さ、名残惜しいがそろそろ出発するぜ」
キャラバン長の言葉を合図に、移動を開始する。
レイとアクスはキャラバンが見えなくなるまでずっと手を振っていてくれた。
砂漠を超えて、戻らなければ。
カルハジェルの待つ、アルーナ・ディエスへ!!
得体の知れない不安がサリュナの胸をよぎる。けれど、前に進まなければ!!
一方、トーヴァンは昨夜デュークがトーヴァンだけに聞こえるように囁いた、去り際の言葉を心の中で反芻していた。
―君は、サリュナ殿を守り抜く覚悟はあるか―
その言葉の意味するところを、歩きながらずっと考えていた。
自分にとってサリュナとは、どういう存在なのか。
また、サリュナにとって自分とは?
今まで出来るだけ考えないようにしてきたのに。
出来るだけ考えないようにしてきた?何故?
その事を考え始めると、何故か胸の奥が苦しくなる。
ただ、一緒にいて、時々役に立てたらそれで良かった。
本当に?
いつかは、夫であるカルハジェルに送り届けなければいけない。
そんなの分かってる。
けれど。
けれど?
そこまで考えてトーヴァンはそれ以上考えることをやめた。
今はまだ、答えを出すべきではない。
そんな気がした。
逃げているだけかもしれなかった。
だとしても……。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ――
今はただ、進む。
サリュナの望む場所へ。
それまでは、守ってみせる!!
どんな事からも、どんなものからも。
トーヴァンの静かな決意は、誰にも知られることはなく。
一行は最初のオアシスで夜を越すのだった。
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