The What-The-Hell Effect

最初に断りを入れておくと、私は時代小説に明るくない。

読んだことがあるそれを思い出せと云われたら、せいぜい頭に浮かぶのは鳥羽亮先生の剣客同心鬼隼人シリーズくらいのものである。それゆえ、件の作品を時代小説として掘り下げられないことが、まっこと心苦しくもあり──。

当初主人公・内藤大八は「第3話 嘘か実(まこと)か」のある出来事をきっかけに"捨て鉢"となったのだなぁ──くらいに思っていたのだが、改めて読み直してみれば自身の置かれていた立場もあり、冒頭から中々の"捨て鉢"っぷりである。

このように件の作品、詞(ことば)の掛け具合(とでも云えば良いので?)がやたらと巧い。

「嘘か、まことか」というキャッチコピー。字面は違えど第3話のエピソードタイトルにもなっているのだが。

一見、おもんの定かではない胸中(大八からすれば"そこ"はまさしく始まりの場所だが、彼女は単に「神様と仏様がいなさる」という理由からそこを選んだのやもしれない)を指す一方、内藤新宿廃宿の影に鯨の大八事件があったこと自体伝え話の域を出ない──すなわち「嘘か、まことか」という所謂ダブルミーニングになっているのではないかと。

少なくとも、私にはそう思えてならないのだが──いかがか。

と、さんざ技巧面にフォーカスして作品を語ってみたわけだが、時代小説に疎い私から見ても良き物語なのである。

ただでさえ破れかぶれだった男がさらに破れかぶれとなる引き金は非常に人間臭く魅力的で、時代を超えて甚だ共感し得る。

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