このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(75文字)
とても短い作品です。しかし、深く深く考えさせられ、同時に様々な感銘を受け得る作品です。世界が壊れていく。バラバラに。意味を成さない断片の塊に。見えていたものは、見えなくなり。元在った世界の、断片。接合を失うだけで、壊れる。在ったのに。今も在るのに。見えないものは、失われた事になり。・・ならば。この短い作品は、ある意味、断片です。故に、深く深く考えさせられます。与えてくれた感銘は、果たしてどこから来ているのでしょうか?美しい文章とともに触れてみて下さい。おすすめです!
短い文ですが、記憶を失っていくパートが丁寧に丁寧に書かれています。とてもとても、言葉にできない切なさです。
この上なく残酷な病の中にいる主人公。大切なものが少しずつ失われていくその恐怖と痛みが、読み手の胸に静かに迫ります。淡々と並べられる言葉が、その壮絶な苦しみを一層強烈に煽るようです。自分の中が空っぽになっても、生きねばならないとしたら。ただひたすらそんな問いが自分の中に残る、凄まじい痛みに満ちた掌編です。
大事なものを、「モザイク」と表現しています。言葉の美しいイメージと、少しずつなくしてゆく残酷さ。双方が溶け合いながら、ひとつずつ欠けてゆくさま。悲しくも残酷に、いつかは迎える終わりの時にも、何かほんのひとかけらでも残されてはいないかと、思いを馳せずにはいられません。
儚さと遣る瀬無さが伝わる掌編です。忘れたくない記憶がモザイク加工に蝕まれるさまは、モザイク模様の薔薇窓が不可抗力に壊れるような切なさです。生きてきた証をひとかけらずつ失っていく現象が、淡々と描き出されています。筆致には純文学的な美しさがあります。人生の終わりに私たちはモザイクを見るのかもしれません。我が身に起こり得るエンディングの予習に、是非ご一読下さい。
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