温かな硝子函にの中に、どうか閉じ込めて。

 冷え切った空気のようにピンと張りつめていて、それでいてどこまでも透明で、透き通っている。それなのに、函の中のように温かい、幻想的な文章。徹底された言葉選びからは、神経をすり減らすほどの妥協のなさがうかがえる。
 シェイクスピアの『ハムレット』に登場するヒロイン・オフィーリア。オフィーリアが川面に恍惚の表情を浮かべて浮く、有名な絵。そしてドビュッシーのピアノ音楽が見事に融合された作品。
 この上記二つの要素に加えられたのは、美しくも儚い「白百合の病」。この病が登場する作品群は、作者様の全体の作品群の中でも重要な位置にある。どれも素晴らしい作品だ。これらの物語が絡まり合って、この作品は構成されている。
 「白百合の病」は人間の成長を止め、指に顕著な奇形的歪みを生じさせ、やがて死に至る難病。指を使うピアノや折り紙が推奨されているが、効果的な治療方法はなく、現在では謎の多い病だ。それでも「白百合の病」に冒された人々は、自分のことを幸せだという。けして自暴自棄になったり、発狂したりしない。そうした穏やかな自分の死への向き合い方は、精神的な成熟と、ピアノを奏でる安らぎを感じさせるだろう。
 
 美しいまま時を止めた白百合たちの、優しさが、儚さと切なさとなって、胸に刺さる一作でした。

 是非、ご一読ください。

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