美しき白の病が齎すは、透けるような命の灯と、鼓動の隨に響くピアノの音色

『白百合の病』という謎の奇病をメインテーマに紡がれゆく、珠玉の短編連作です。
作者さまの他作品にも登場するこの病は、罹患者の時間を止め、身体の自由と色彩を奪います。
病に冒された当人やその周囲の人々の抱く想いが、美しく繊細な文章で綴られています。

治療法のない病に身を蝕まれた時、人は残された時間をどのように過ごすのでしょう。
本来あるべきだった未来が、丸ごと白く染め抜かれてしまったような時間を。
ある人は、絶望して歩みを止めるかもしれません。ある人は、それでもなお日常に希望を見出すかもしれません。
一つ言えるのは、彼らが過ごしたその時間は、見た目通りの空白ではないということです。

奇しくも、登場人物の多くがピアノの奏者。
残りわずかな命の輝きと、その時々の想いを映すピアノの音色に、不思議な親和性を感じます。
『死』が間近に迫るからこそ、確かな『生』を意識する。
どんな死を迎えたかということより、どう生きたのかということ。
語り手の心の端々までを、あなたもきっと感じることができるでしょう。

美しくて切なくて、そして愛《かな》しい、素晴らしい作品です。

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