美しく儚い、けれど揺るぐことのないオフィーリアの世界

一度読み始めたら独特の透明な世界にさらわれる。
これは著者である宵澤ひいなさんの作品群すべてに共通する磁力のような魔力です。その世界は崇高で、穏やかな哀しみに包まれていて、控えめなユーモアがあります。
この作品はそんな宵澤さんの精神世界をさらに深く掘り下げ、さらに感性を研ぎ澄ませ、著者の永遠のテーマともいえる「透明」を追求したお話です。

オフィーリアに象徴される永遠の少女性。それは透明な魂を象徴するものでもあります。濁りない感性をそのまま凍結させるかのような物語は、現実の世界に生きることを余儀なくされる者へカタルシスのように沁み込んできます。どう生きようと、どれだけ歳を経ようと、人は心のうちでここへ回帰することを願っているのかも知れません。
病に侵される登場人物たちの行く末は死というかたちの凍結ですが、人生の終わりを迎える時、こんな境地に辿り着けたらどれだけ幸せだろうと思えるのです。

この物語はスピンオフでもあるため、著者の他作品も一緒に鑑賞されることをお勧めします。読んだときの色合いが断然濃くなることでしょう。
美しく儚い、でも揺るぎない美学の芯が通った世界。ぜひゆっくりと味わってください。

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