第08話「最強†クラウド†」
ゼルミナの豊満な体に向かって一歩踏み出す。
びくっと身を引いたゼルミナは、翼を広げて宙に浮いた。
とりあえず、ゼルミナはそのままにして、コルテの肩をぽんとたたく。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして震えていたコルテは、それだけで呪縛を解かれたように、へなへなと崩れ落ちた。
「もう大丈夫だ、コルテ」
次にアーシュへと歩み寄る。
身をかがめ、抱き起すと、アーシュは小さく「うぅ……」とうめいた。
ステータスで確認はしていたが、どうやらちゃんと生きてる。
ポーションを取り出し、飲み下せないアーシュへと、口移しで流し込む。
ごくり、ごくりと喉を鳴らし、アーシュは目を開けた。
「がんばったな、アーシュ」
「クラウド……」
見つめあう俺の背中に、衝撃が襲った。
ドラゴンの前足。
しかしその鋭いかぎ爪は、面白いほどにノーダメージだった。
「うるせぇなザコ。アーシュ、ちょっと待ってろ」
一本一本が俺の身長よりも長いかぎ爪を、ハエでも払うかのように
ドラゴンはバランスを崩し、よろめいた。
追撃で、上空からゼルミナが呪文を投げる。
雷の槍が何本も俺の体を突き抜けたが、残念なことにこちらもノーダメージだった。
「おいゼルミナ」
「……なにかしら、勇者さん」
「土下座するなら許してやるぜ?」
「っこのっ! 調子に乗――」
言い終わる前に、俺は足元に転がっていた瓦礫をゼルミナに投げつけた。
ぼんっと言う空気を突き破る音と共に、瓦礫が黒い翼に穴をあける。
翼から血を流し、それでもバランスを保とうとしたゼルミナの角に、二つ目の瓦礫がごぉんっと派手な音を立てて命中した。
さすがのゼルミナも床に落ちる。
ニヤニヤ笑いが止まらない俺は、ゆっくりと彼女に近づき、穴の開いてない方の翼を踏みつけた。
「いいい痛いっ! おやめなさいっ!」
まだ高圧的に出ようとするゼルミナの翼を踏む足に力を込める。
バキッと言う乾いた音がして、翼は変な方向に曲がった。
「んぎゃっ!」
「あ? なんだって?」
「いい痛い痛いっ! おおおやめなさい! 勇者さん!」
「勇者さまだろ? いや、クラウドさまと言え」
「誰がっ! この魔界大元帥ゼルミナ、腐ってもそのようなことなどっ!」
意外としぶとい。
実はもうすでにアーシュとコルテの意趣返しにも満足していた俺は、もっと面白いことを思いついた。
バイナリエディタを開いて、アーシュとコルテにやったように好感度を「FFFFFF」に書き換える。
足の下でびくんっと体を震わせたゼルミナは、突然はぁはぁと荒い息を吐き、よだれと涙を流しながら、とろんとした♡の瞳で俺を見上げた。
「クラウドさまぁ♡」
「おう」
「もっと……踏んでくださいまし♡」
おっと、そう来たか。
うつぶせのケツを蹴り飛ばし、ゼルミナを転がす。
ひぃひぃ言いながらも這うようにして立ち上がったゼルミナは、あいかわらず♡の瞳でキッと俺を睨みつけた。
「お、覚えておいでなさい! クラウドさまっ! この魔界大元帥ゼルミナ、必ずあなたさまを殺して見せますわ!」
「おお、すげぇ。さすが魔界大元帥。好感度マックスにも抵抗すんのか」
「なんだかわかりませんけど、ちょっとくらい……いえ、とぉっても素敵だからと言っても容赦はいたしませんわ! 必ず、必ずですわよ、クラウドさま! 絶対にわたくしのこと、覚えていてくださいましね♡」
捨て台詞だかなんだかわからない言葉を吐いて、ゼルミナは魔方陣の輝きと共に消え去った。
残ったのは
「……」
所在なさげに無言で立っていたのだが、主人であるゼルミナが消えるとともに、
咆哮を上げ、カギ爪を振り下ろし、尻尾で薙ぎ、巨大な牙で噛みつく。
どの攻撃も一撃必殺の力を持っているはずなのだが……。
「ざんね~ん! ノーダメージでフィニッシュでぃ~っす!」
グーパン一発。
ぱぁんと言う破裂音をたてて、ドラゴンの頭は粉々になった。
経験値アップ。
1677万7215の経験値は突然99万9999に変わる。
それに合わせるように、俺のレベルは99/99と表示され、体力などの能力も999に変わった。
「あれ? なんか……俺弱くなった?」
「えぇ? そんなことないよ?!」
「クラウドしゃまは超強いでしゅよ?」
いや、確かに最高レベルなんだろうけど、そういうことじゃない。
文字化けは消えている。
そもそもゼルミナが253レベルだったんだ、この数値はデータとしての上限じゃない。
たぶんシステム的に種族とかで上限が設定されてるやつだろう。
ふだんはこれでいいかもしれないが、次にゼルミナや敵の大ボスと戦う時までには、何か対策を考えておかないとヤバいなと、俺は思った。
まぁ最悪、ボス戦の前に経験値「FFFFFF」に書き換えて一回戦闘をはさめば、ボス戦が終わるまでは文字化け状態をキープできるんだ、それでもいいけど。
ただ、あの急激なレベルアップの気持ち悪さは、もう二度と味わいたくなかった。
「……ま、何とかなるだろ」
とりあえず当初の予定は達成した。
俺はアーシュとコルテを連れて街へ戻り、意気揚々と冒険者ギルドの扉をたたいた。
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