第01話「何はなくとも、まずは所持金」

 暗転。


 気が付くと中世ヨーロッパ(笑)的な世界の、大きな街に居た。

 巨大な広場、噴水の前。

 人間の街なんだろうが、お約束どおりエルフやドワーフなどのデミヒューマンも結構歩いていて、鎧に剣や弓などを装備しているものも多かった。

 しかし、自分の着ている服はと言うと、質素な布の服。


「あの女神、腹いせに装備その他を最低ランクにしやがったな」


 ぶつぶつ言いながら、持っていた革の袋を漁ってみると、意外にもそれは異空間的なところへものをしまえる、俗にいう「無限袋ホールディングバッグ」だった。

 この世界ではこれが普通なのか。あ……いや、これが女神の言ってたサービスのマジックアイテムか。

 ともあれ、所持金は銀貨2枚。

 近くの店を見ると、鉄のナイフって言うのがちょうど銀貨2枚で売ってた。


 これは所持金もやばい。

 早速俺は、自分のステータスをチェックした。


「え~っと、所持金は……」


 銀貨2と書いてあるのを確認。

 バイナリエディタを開く。

 そこには16進数の羅列が並んでいた。


「うわ、マジでバイナリデータじゃん」


 分かりやすい例として言っただけなのに、あの女神真面目か!

 しかたない。とりあえず「2」と言う数字を検索してみるが、ヒットしたアドレスが多すぎる。

 これは差分で検索するしかないと、俺は最初に目についた店に入った。


「いらっしゃい」


 顔に傷のあるおっさんが出迎える。

 俺は並べてある商品に目を走らせたが、どれも銀貨1枚では買えそうもなかった」


「なぁ、銀貨1枚で買える武器ある?」


「銀貨1枚だぁ~? そんなんで買える武器なんか……」


「無いの?」


「う~ん、ちょっと待ってろ」


「わるいね」


 おっさんは足元の木箱をガサガサと漁り始める。

 しばらくそのまま待っていると、おっさんはやっと顔を上げた。


「この下取り品のナイフなら銀貨1枚で良い」


「おっ、んじゃそれで」


「しかしなぁ、お前さん冒険者志願だろ? こんな装備じゃ冒険に出てもすぐ死ぬぞ。悪いことは言わん、もっと働いて金稼いでからにしろ、な?」


「いいんだって。金を増やすために必要なの」


 それでも渋るおっさんをなんとか説得して、俺は銀貨1枚で中古のナイフを買った。

 すかさず、さっき「2」で検索に引っかかったアドレスの中から、今現在の値が「1」になっているところを絞り込む。

 それでもまだヒットしたアドレスは数千か所あった。


「おっさん」


「なんだ、あきらめたか?」


「うん。あきらめるわ。だからこのナイフ返品していい?」


 人のいいオヤジは喜んで返金に応じてくれた。

 店を出て、絞り込まれているアドレスからさらに「2」に戻ったところを絞り込む。

 ヒットしたアドレスは2つ。

 とりあえず片方を「FF(255)」に書き換えてみる。

 バッグの中を覗き込むと、銀貨が255枚になっていた。


「ビンゴ~♪」


 バイナリエディタにメモで「所持金(銀貨)」と書き込む。

 まさか255で打ち止めではなかろうと、隣のアドレスも「FF」にした。

 予想通り、バッグの中の銀貨は65,535枚に増える。

 これでとりあえず、金の心配はなくなった。


 また少しうろうろして、高利貸し的な雰囲気の場所で両替をしてくれることを知った。

 店に入り、目つきの悪い店員に銀貨を渡す。


「これ、金貨にしてくれる?」


 店員はにらみつけるような目で銀貨を一枚一枚確認し、銀貨10枚を金貨1枚に変えてくれた。

 ただし、金貨1枚につき、手数料として銅貨を1枚とられる。

 とりあえずいろんな店で何回か金貨に両替して、そのたびにアドレスを絞り込むと、簡単に金貨のアドレスを見つけることができた。

 無事、金貨も65,535枚にしたところで、もう太陽は頂点を過ぎている。

 少し早いが、俺はしばらくの間の拠点になる宿を探すことにした。

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