第06話「レベルア~ップ!(てってれ~!)」

 豪華な宿で、どろどろぐちゃぐちゃの熱い夜を過ごした翌日。

 さすがにそろそろ俺自身のステータスも上げなければなるまいと、俺たちは近くの森へ来ていた。


「う~ん、腰が痛い!」


「大丈夫? クラウドったらすごいんだもん。ぼくまだ足の間になにか挟まってる気がするよ」


「まったく、経験のない乙女二人を相手に、初日からあんなに激ちくしゅるなんてあまりにも常識がないでしゅよ……もうコルテはクラウドしゃまのものなんでしゅから、慌てないでほしいでしゅ」


 今朝起きると、俺の経験値が123上がっていて、「鬼畜」「腰振り猿」と言う称号まで増えていた。

 現実世界でエロ動画を見まくって日々精進した知識が初めて役に立った、夢のような瞬間だったなぁ。

 とまぁそれはさておき、バイナリエディタで123を検索する。

 検索前に、俺のステータスがまとまっているアドレス辺りに絞り込んでいたため、経験値の欄は思ったより簡単に見つかった。

 アーシュやコルテの経験値を見ると10万以上ある。

 そのくらいの桁数は許容できるものとして、俺は経験値を「FFFFFF」に書き換えた。


「よし、経験値1677万7215……あれ?」


「どしたの?」


「経験値ってなんでしゅか?」


「いや、経験値は増えてるのにレベル上がんねぇな」


 不思議そうに俺を見る二人は無視して、もう一度ステータスを確認する。

 確かに経験値の欄には1677万7215と表示されているんだが、その隣のレベルは1のままだった。


「う~ん、もしかして、レベルアップ判定は戦闘後にしか行われないパターンか?」


 実際のゲームでもよくある。

 仕方ない。ここは一丁戦闘するか。


「なぁアーシュ、この辺で一番弱いモンスターってなに?」


「え? えっとね……あれ? コルテ、なんだっけ?」


「まったく、何も考えてないんでしゅから、この弓オタエルフは。クラウドしゃま、一番弱くて倒しやすいモンスターは、ス……」


「お、定番のスライムか?」


「……いいえ、スケルトンでしゅ」


「え~やだよ~。あいつら弓当てにくいんだもん」


 アーシュを無視して、コルテがメガネくぃ~っとしながら説明したところによると、スライムは物理攻撃がほとんど効かず、酸や毒による継続ダメージもあるので危険だということだった。

 その点スケルトンは、物理攻撃がよく効く。コルテの神聖魔法でバフを掛ければ、こっちがダメージを受ける確率もほとんどない。

 俺の訓練にはうってつけだった。


 渋るアーシュを引きずって、昼でもアンデッドの出現する地下墓地カタコンベへ向かう。

 入り口にはかんぬきと鍵がかけられていたが、墓守に話をすると、アンデッド討伐ならばとすぐに開けてくれた。

 かなり長い階段を下ったところ、周囲8方向に大きな通路のある広い部屋で、俺たちはこれからの相談を始めた。


「クラウドしゃまには『鍛冶神ルフタの守り』も『聖なるやいば』もかけたので準備万端でしゅ。ケガをしたらコルテが回復ちましゅから、思う存分暴れてほしいでしゅ」


「ふぇぇぇ~こわいよぉ~」


「だらしないでしゅねぇ、天弓てんきゅうのアーシュともあろうものが」


「ぼくエルフだもん。普段から地下で生活してるドワーフと一緒にしないでもらえるかなぁ」


 生き生きとしているコルテとは裏腹に、アーシュはもうすでに腰が引けている。

 アンデッドを怖がるぼくっ娘は可愛いが、こうしがみつかれては戦いの邪魔なので、コルテにまかせた。


「よっしゃ! いくぞ!」


 気合を入れる。

 とたんに近くの骸骨が、カタカタと起き上がった。


「クラウドしゃま? 大声を出すとモンスターが集まってくるでしゅよ」


「それ早く言えよ!」


「いや常識でしゅ。でもそんなうかつなところもしゅきしゅきでしゅ♡」


 幸い今のところ敵は一体だ。俺はごてごてと宝石の飾られた剣を抜き、剣道の上段で構えた。

 別に剣道の心得があるわけじゃない。

 それでも思いっきり剣を振り下ろすと、スケルトンの鎖骨から肋骨、脊髄までが、簡単にバッキバキに砕けた。


「やったぁ! クラウドすごぉ~い!」


「さすがクラウドしゃまでしゅ!」


 ほぼコルテのバフのおかげだろうが、初めての戦闘は簡単に片付いた。

 同時に、めまいがして俺は膝をつく。

 立っていられない、世界がぐるぐる回る。

 何かの状態異常かとステータスを見ると、俺のレベルや筋力、知力、体力、魔力などすべてのステータスが、ものすごい勢いで上昇していた。

 あまりにも急激な変化が気持ち悪い。

 しかし、俺自身よりアーシュとコルテの慌てぶりのほうがすごかった。


「クラウドしゃまぁ! 『超回復』! クラウドしゃまぁぁ! 『超回復ぅ』! 『超回復ぅぅぅ』! あぁぁぁん」


「え~ん、クラウドぉ! しっかりしてぇ! 回復薬ポーション飲んでよぉ! 解毒剤アンチドーテも飲んでぇ!」


 アーシュとコルテが両側から俺を抱き、回復魔法やポーションを使っているのが見える。

 二人には悪いが、ダメージや状態異常のたぐいではないので、回復は意味がない。

 大騒ぎする二人を「ちょっと待て」といさめた俺は、カタコンベの奥底から響く地鳴りと、怨嗟えんさに満ちた唸り声を聞いた。

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