第03話「パーティ結成したら装備を整えよう」
冒険者ギルドの前で、かなり美人のエルフに抱き着かれ、俺は身動きが取れなくなっていた。
周囲の冒険者の視線がいたい。
口々に「
よし、だいたいわかった。
そのへんの冒険者のレベルが20そこそこだっていうことも、アーシュの63レベルはかなりやばいってことも。
「おい、アーシュ、離れろよ」
「え? ぼくに触られるのいや?」
「そうじゃない。動けないだろ」
「あ、そか。ごめんなさい」
長い耳をぴくぴくと動かして、アーシュは「待て」されている犬のように俺を見ている。
その気になれば一撃で俺を屠ることもできそうなつるぺたエルフがだ。
バイナリ書き換え効果絶大だな。
「アーシュ、俺のこと好きか?」
「うん、だぁ~い好き!」
うん、いいぞ。ぼくっ娘らしい返事だ。
しかし、だ。
それでもいいけど。
「ちがうぞアーシュ。そこは『だいしゅき!』か『いっぱいちゅき♡』のどっちかがマストだ」
「うん、クラウドいっぱいちゅき♡」
たまらんぞこのつるぺたエルフめ。
頭をなでてやると、ハートをまき散らしてとろけるような表情をする。
アーシュの好感度をシステム限界値を超えて上げた成果か、俺のステータスに「天弓の主人」と言う通り名が表示されていた。
この辺のフラグ制御も後で調べないとな。
でも今はとりあえず。
「アーシュ、俺のパーティに加われ」
「うん、うれしい!」
その返事に、周囲で遠巻きに見ていたザコ冒険者どもからどよめきが上がった。
「アーシュがパーティを組むだって?!」
「あの一匹狼が?!」
「四天王の一角、天弓が……」
「あのボウズ何者だ?!」
ザコ乙。
にっこにっこと満面の笑みを浮かべるアーシュを従えて、俺はとりあえず見栄えのいい装備を買いに行くことに決めた。
アーシュくらいの冒険者なら、それなりの店を知ってるだろう。
予想どおりアーシュに連れていかれた店は、武器防具の店なのに、日本の貴金属店みたいなたたずまいをしていた。
「これはこれは、アルセイル・ミュリーシュアさま。ご活躍のうわさ、いつも嬉しく聞いております。……本日はどのようなご用向きで?」
めんどくさいしゃべり方をする店員をほっといて、俺は店の中をぶらぶらと歩く。
アーシュも店員へは軽く手を振っただけで、てててと俺の後をついて歩いた。
「うーんと、この服とこれ。あとこっちの剣と、それに似合いそうな装備品を一通り並べてくれ」
適当にガラスケースの中を指差し、よさげな商品を選ぶ。
店員は一応笑顔のまま対応していたが、その顔は引きつっていたし、警備員が数人、俺たちのまわりを囲んだ。
30レベルやそこらの警備員が何人束になっても、アーシュを取り押さえられるとも思わないが。
まぁ俺は紳士だから、ちゃんと金も払うけどね。
「どうだ? アーシュ」
「うん、かっこいい! クラウドにぴったりだよ!」
「しかしお客様。こちら少々値がはりまして……」
「いくら?」
金貨6万枚以上持ってるんだ、余裕だろう。
そう思って待っている俺に、店員はそろばんのようなものをずいっと持ち上げて見せた。
「かなり勉強させていただきましても、このくらいは……」
「うわっ、高ぁ~い」
「どれも最高級の品ですので」
俺は金額がわからなかったが、アーシュが驚いているので高いのだろう。
どうせ見てもわからないそろばんには目も向けず、俺はバッグの中へ手を突っ込んだ。
「だから、何万?」
「はい? いやいや、ご冗談を……15万ゴールドでございます」
ちょっとびびった。
16ビットで足りないとは思わなかった。
「ふ~ん。ちょっと待てよ」
びびったのを悟られないように、バッグの中を探ってるふりをしながらバイナリエディタを開く。
所持金(金貨)とメモのつけられているアドレスを開き、24ビット分、「FFFFFF」と書き込んだ。
とたんにバッグの中にあふれかえる金貨。
それはそうだ。なにしろ1677万7215枚の金貨なのだ。
ホールディングバッグでなければつぶれて死んでたな。と笑い、俺はザックザックと金貨を取り出し始めた。
「おおおおお客様?! まさか全額小金貨でお支払いを?!」
「小金貨?」
話を聞くと、一般に流通している金貨は「小金貨」と言って、このレベルの買い物にはふつう使われないらしい。
自動車を百円玉で買うようなもんか。
貴族の買い物に使われる「大金貨」は1枚百ゴールド、その上に「ゴーダ金貨」と言う初代王の名前が付いた1枚千ゴールドの金貨があるらしかった。
「わりぃわりぃ、冗談だ」
銀貨と金貨のバイナリデータは隣り合っている。
同じだけの間隔をずらして、「00」が並んでいるアドレスを「FF」に書き換えると、予想通り大金貨もゴーダ金貨も255枚ずつになった。
ゴーダ金貨を150枚、ぽんと支払う。
店員もアーシュも、その中央に水晶の埋め込まれたバカでかい金貨を見て、目を丸くした。
「すごい! クラウドすごいねぇ!」
しきりに感心するアーシュをよそに、店員は何かのマジックアイテムを使ってゴーダ金貨が本物かどうかを確認していたが、それでも無事、装備を買うことができた。
全部身に着けて、宝石の輝く細身の剣を腰に帯びる。
今まで着てた服は処分してもらうように言い置いて、俺たちは直角以上の最敬礼を受けて店を出た。
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