第04話「やっぱスラムより貴族街だよね」
宿に戻ると、入り口でアーシュが嫌そうな顔をした。
「どうした?」
「いや、えっと……ほんとにここに泊まるの?」
昼間、なるべく賑やかそうな宿を探してとったんだけど、アーシュくらいの冒険者から見ると、「場末の安宿」と言う感じに見えるらしい。
確かに、さっきまで知らなかったが、たかが小金貨10枚見せただけであの好感度爆上げだ。たいした店ではないんだろうと、今なら分かった。
「いやか?」
「ううん! クラウドがここって言うなら、ぼくは言うこと聞くよ!」
「最初に目についたからここにしただけだ、別にどこでもいい」
「ほんと?! じゃあさ! ぼくの泊ってる宿にしよ? それがいいよ」
一度店に入って、オヤジに宿を変えることを伝える。
あわてて「なにか粗相がありましたか?!」などとすがりつくオヤジへ、前金は返さなくていいと振り払って宿を出た。
「びっくりしたぁ。あんな大金持ってるのに、変な宿に行くんだもん」
道すがら、アーシュがない胸で抱きつきながら笑う。
15万ゴールドがどのくらいの価値なのか、そういえば知らないなと、俺はまわりの店の値札を眺めながら歩いた。
「なぁアーシュ、このへんはわりと安い店が多いのか?」
「う~ん、そうだなぁ、これより西に行くとほぼスラム街だし、今から行くのは壁の内側だから、この辺はまぁ普通? 庶民的なお店かな」
言われてもう一度周りを見渡す。
店舗を構えていないような出店屋台も多い。
値札は殴り書きしたようなものが置いてあって、確かに庶民的な店と言った感じだった。
トウモロコシみたいなやつ1本銅貨2枚。素焼きの小さな
安宿2千円、酒が瓶代含めて千円だとすると、銀貨1枚が千円くらいだろうか?
それで計算すると、金貨1枚1万円。15万ゴールドは……え? 15億円?
……うせやん。
「ちょ、アーシュ、俺のこの装備どう思う?」
「え? さっきも言ったけど、とっても似合っててかっこいいよ!」
「そう言うんじゃなくて、冒険者としてだよ!」
「うーん。そういわれると、ちょっと実戦向きじゃないかなぁ。貴族が王の謁見に着ていくような……一世一代の晴れ着? みたいな」
言いにくそうに、アーシュはごにょごにょと口を濁す。
俺は眉間を押さえて、アーシュから一歩離れた。
「値段は? 15万ゴールドってどう思う?」
「えっと、ぼくも長いこと冒険者やってるけど、そんな大金……そもそもあんなにたくさんのゴーダ金貨見たのも初めて。確かにそれだけの価値はあると思うけど……装備っていうより、財宝? 売りに出す冒険者はいても、買った冒険者はクラウドが最初じゃないかな……」
「……やべー、しくった」
「そんなことないよ! だってすごく似合ってるし、超かっこいいもん!」
アーシュに慰められながら、街を分断する門をくぐる。
アーシュに向かって敬礼をした門番は、しかし、俺を見ると槍を持って駆け寄った。
「失礼します。お見掛けしないお顔のようです。お手数ですが、一応お名前をお願いできますでしょうか?」
「俺? クラウドだけど?」
もう一人の門番が、「クラウド……クラウド……」とつぶやきながら分厚い本をめくる。
最後まで指を滑らせた男がこっちへ向かって首を横に振ると、最初の門番は俺に詰め寄った。
「申し訳ありません、台帳にお名前がありませんので、通行証を見せていただけますか?」
「ねぇよそんなもん」
「え? クラウド持ってないの?」
「それでは申し訳ありませんが、お通しできません」
詰所からさらに数人の門番がわらわらと姿を現し、俺を囲む。
そのうち一人の腕が、どんと俺にぶつかり、まだ筋力7の俺はちょっとよろめいた。
その瞬間、衛兵たちの顔色が変わる。
おそろいの鎧の門番たちが恐ろし気に見つめている視線の先をたどると、そこにはアーシュが……背中から凝った装飾のしてあるショートボウを取り出したアーシュが仁王立ちしていた。
「え? おいアーシュ」
「こいつッ! ぼくのクラウドを突き飛ばした!」
「ひっ?!」
俺にぶつかってしまった不運な門番が尻もちをつき、ほかの門番は、その射線上から我先に身を隠す。
矢筒からすらりと2本の矢を抜いたアーシュは、門番へ向けて同時に2本の矢をつがえた。
「ぼくのッ! ぼくのクラウドをよくもッ!」
「だれがお前のだ」
ごちん。
アーシュの頭にげんこつを落とす。
筋力7のげんこつは、アーシュに何のダメージも与えていないはずなのだが、当のアーシュは涙目でぺたんと座り込んだ。
「ダメだろ、街ん中で弓とかよ」
「……ごめんなさいクラウド。嫌いにならないで?」
「可愛いからゆるーす! あとあんたら、わるかったな」
「い、いえっ! ありがとうございます!」
騒ぎを起こしたはずがなぜかお礼を言われてしまった。
その後、すぐ近くで通行証が売っていることを聞き、買いに向かう。
わずか大金貨1枚を支払って通行証を買い、俺たちは「城内」と言われる、いわゆる貴族街へと入った。
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