最終話「超イージーな終わり方」

 魔王の好感度を「FFFF」に書き換えてから国へ帰ると、どういう伝達手段を使ったのか、俺が魔王を手下にしたことは、もう国中に伝わっていた。

 アーシュとコルテに加えてゼルミナといちゃいちゃしながら、城へ向かう。

 正門の前には、12歳のエリザベサエ姫が、臣下を引き連れて待っていた。


「ああ! 勇者さま! よくぞご無事で!」


「この子、ほんとクラウドのことわかってないよね」


「ほんとでしゅ。クラウドしゃまが魔王ごときに、かすり傷でも負わせられると思ったでしゅか?」


「ほんとですわ、クラウドさまぁ。こんな人間の小娘など、嫁にするのはおやめになった方がよろしいですわよ」


「うむ、われごときがクラウドさまにたてつこうとは片腹痛い」


 みな口々に好き勝手なことを言い、姫はちょっとムッとした顔になる。

 俺はみんなをいさめて姫の頭をなでると、その顔にはパァッと笑顔が咲き乱れた。

 一瞬ざわついた臣下たちも、その顔を見て矛を収める。

 姫は問答無用で俺の隣に並んで、謁見の間へと向かった。


「勇者クラウドさま、ご到着!」


 兵士の口上に続いて、謁見の間の扉をくぐる。

 笑顔で俺を迎えた国王は、玉座から立ち上がり、わざわざ俺の前まで歩いてきた。

 もちろん、こんなことは前代未聞だ。

 それだけでも臣下たちは騒然としていたのに、あろうことか、王は俺の前に膝をつく。

 下げられた頭に、俺はどうしたもんかと周りを見渡した。

 もちろん、だれもどうしたらいいのかわかるはずもない。

 そうこうするうちに、王は口を開いた。


「勇者クラウド………いや、クラウドさま」


「さま?」


「かの魔王を倒すどころか心酔させ、配下としたそのお力、そして器量の大きさに、余は感服いたした。このような偉大な人物の前で、余……わたしごときが王を名乗っていいはずがない。クラウドさま、どうかこの国の王となっていただきたい」


 え~王にぃ?

 まぁ姫と結婚する以上、いつかは継がなきゃいけない。そうは思っていた。

 その時のために、政治や軍事一切を任せようと魔王も手下にしたんだ。それはいい。

 だけどここで言われるがままに王様になるのは、なんかちょっと負けた気がした。


「王さま、顔上げろよ」


 手を取って、まだ40代後半くらいの王さまを立たせる。

 ぽんぽんとひざのほこりをはらってやり、俺はにっこりとほほ笑んだ。


「俺がそんな(めんどくさい)ことに、うなずくわけないだろ」


「しかし……国民みなが願っていることですぞ」


「あんたいい王さまだろ。魔王が来るまでちゃんと治めてたんだから」


 納得しない王さまをむりやり玉座まで連れて行って座らせる。

 俺の謙虚で優しい行動に、アーシュと魔王、そしてエリザベサエ姫は、感動して涙まで流していた。


「でもまぁ、あんたや国民が望むなら、俺がこの国を守ってもいいぜ」


「おおっ。では!」


「ただし国王はお前な」


「それはどういう……?」


「俺は皇帝だ。周りの国も全部手に入れて、全世界の王国を束ねて治める皇帝になるぜ。世界中のおっぱいが俺を待ってるからな」


 この言葉に一番目を輝かせたのは魔王だった。

 コルテは大きくため息をつく。


「まったく、やってることは魔王と変わりないでしゅ。でも、世界中から望まれて世界征服するなんて……さすがクラウドしゃまでしゅ。しゅきしゅきだいちゅき♡」


 こうして、俺は超イージーモードの世界で皇帝を称することになった。

 ほかの国も、好感度MAXと魔王軍の軍事力で次々と陥落する。

 俺の超絶カリスマ性と、不況や飢饉に縁のないバイナリエディットによるチート政治は、「†クラウド帝国†」を瞬く間に世界最大の帝国にのしあげた。


「クラウド陛下。北部地域の干ばつが――」


 バイナリエディット。


「地面と大気中の水分増やしといた。あとは好きにしろ」


「クラウド陛下。南部で獲物の数が減って――」


 バイナリエディット。


「鹿とイノシシと鳥増やしておいた。あとは好きにしろ」


 万事こんな調子だ。

 ゲームでチートするとすぐつまらなくなって飽きるけど、実際の生活にチートが使えると、飽きることなくいつまでも面白い。

 今日も俺は、精力無限化チートや性感100倍チートなど、いろいろなデータをバイナリエディットし、おせっせに……いや、世界の皇帝としての責務に励むのだった。

 世界中のいろんなおっぱいのために。


――了

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ホントのチート「バイナリエディット」で、異世界は超イージーモード 寝る犬 @neru-inu

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