虫取り その2

「腕が……死ぬ……」


 約一時間虫取り網を振り続けた私は限界を迎えていた。普段運動しないやつに、こんな重労働できるはずがない。

 少し休憩しよう。

 私は腕を揉みほぐしながら腰を下ろした。背後からは金ケ崎が壁を蹴って地上5メートルまで飛び上がる音が間断なく聞こえる。


「あいつもう、人間じゃないな……」


 そう呟いたとき、私は異変を感じた。喉の奥を不愉快に刺激される感覚。そして咳き込む。吐き出した空気を取り戻そうと息を吸うとーー


「臭ぁぁっ!なんなのこの臭い!」


 私がそう叫ぶと、鼻を摘んだジョーが神妙な顔で私のそばにやって来た。

 何だ?何か大変なことでも起こったのか……?

 私が身構えていると、ジョーは鼻声で言った。


「お前……屁こいただろ?」


「違げーよ、バカ!」


「ぶっ!?」


 どこをどう考えたらその結論に至るんだよ!

 私は憤慨した。ちなみに、ジョーの「ぶっ!?」は私の平手打ちが炸裂した「ぶっ!?」だ。


「痛えよ!この馬鹿力!」


「馬鹿はあんたでしょ!」


 ぎゃあぎゃあ大騒ぎしていると、寺峰が騒動に気づいてやって来た。


「どーしたの?仲いいのはいいけど、ぶつのは程々にしなよ〜」


「「仲よくねーよ!」」


 私は寺峰にことの顚末を語った。話を聞き終わると、寺峰はなんの屈託も無い笑顔で言った。


「それはもう一発くらい平手打ち食らっといた方がいいね(≧∇≦)b」


「いっとく?」


「いっちゃお!」


「マジでスンマセン、もうしません、再発防止に努めます」


「分ればよろしい」


 片頬を腫らしたジョーに私は慈悲をかけてやった。


「でも、これなんの香りだろうね?いい匂い〜」


「は?」


 この鼻の曲がりそうな臭いがいい匂い?

 ジョーが化け物を見るような目で寺峰をまじまじと見つめる。


「寺峰、お前味覚だけじゃなくて嗅覚もイカれてるのか……?」


「えー、ひどいなあ!

 鮎川ちゃん!やっぱりもう一発平手打ちいっとこうよ!」


「ごめん、今回はジョーに同意」


 寺峰は不服そうに頬を膨らませた。


「あ、あのぅ」


 背後から鼻声で声をかけられ振り向くと、鼻をつまんだ東野君だった。


「どうしたの?」


「このニオイなんですけど、八島の仕業だと思います……」


 顔面蒼白の東野君は口元を抑えた。かなり気分が悪そうだ。


「分かった。もう生物室に戻ってていいよ」


「すみません……」


 東野君はふらふらと教室に戻って行った。

 ジョーが忌々しそうに言った。


「八島の奴を探しに行くか」


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