虫取り その3
私達は立ち尽くしていた。
理由は八島さんを見つけたからだ。ガスマスクをつけ、三角フラスコと試験管で何かを調合している八島さんと、その横で朦朧とした様子で何かを練っているぶちょーを。
「ね、ねりねり〜ねりり〜虫さん、おいでぇ〜……八島、これ、いつまで……」
「まだです。これを加えれば完成ですので、ぶちょーは練って歌って下さい」
「は、はい……ところで、歌の意味は……」
「ありません。BGMです」
「そっかあ、BGMかあ、なら仕方ないなあ。ねりり〜ね〜り〜」
というやり取りをしている二人を見て、呆然としていた。
「何あの地獄絵図」
「ぶちょー、あのままだと死んじゃうぞ……」
「頭おかしくなっちゃってるねえ」
「……放っておかね?」
また、悲哀に満ちたねりり〜の歌が私達の耳に届いた。
「……止めに行こっか」
「そだね〜」
私達は二人に近づいた。近づくと余計に臭いがヒドい。3メートルほど離れた場所から、寺峰が話しかけた。
「ねー!何してるのー?」
「ぶちょーに頼まれて虫をおびき寄せる臭いを調合しています」
「ぶちょーのせいかよ」
ジョーは、ねりり〜しか言えなくなっている哀れなぶちょーを睨みつけた。
「しっかし、寺峰は虫好きなだけじゃなく嗅覚も虫だったのか……」
ジョーはため息をついた。
私は八島さんに本題を切り出した。
「悪いけどそれ、やめてくれないかな?臭いし東野君が気分悪くなっちゃったし」
「そうなんですか。しかし、少しだけお待ちください。今寄ってきている虫だけでも捕まえておかないと……」
その時、頭上から声が降ってきた。
「おうい、大漁だぞ!」
次の瞬間、目の前に金ケ崎が着地した……40Lゴミ袋と共に。
「なんだよ、その袋」
「虫だ。何故か急に虫が集まってきてな。面白いくらい捕まったぞ」
「金ケ崎、この臭い平気なの?」
「臭い?今、鼻が詰まっているから分からないな」
私とジョーがポカンと口を開けていると、八島さんが何事もなかったように言った。
「任務完了。皆様お疲れ様でした」
「ね……りり……」
その横で、ぶちょーが力尽きた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます