アオハルしたい女の子

「 ねえ、アオハルしたいんだけど」


 私ーー鮎川ーーはつぶやく。生物室には、金ケ崎と二人きりだ。


「何を言う。水槽や虫かごの中の生き物たちにエサをやり掃除をし、中庭に餌を捕まえに行っては虫に刺され、泥だらけになる。残りの時間はしょーもない雑談に消えていく。

 我々が体験しているこれぞ青春だろう」


「悪意あるよね。確実に青春って思ってないよね」


「まあ、ボッチで弁当食ってようが異世界転生しようが、中高生活は青春だからな」


「定義が広すぎる……」


 金ケ崎はおもむろに足元にあった10㎏ダンベルを持ち上げて、筋トレを始めた。生物室で中学生女子が筋トレをしている、というカオスにも慣れた。


「ところで、鮎川はどんな青春をしたいんだ?」


「恋をしたいの」


「ほう。確かにそれはアオハルだな」


「そう。アオハルなんだよ」


「うちの部の男子はどうだ。部活内恋愛なんて いかにも青春じゃないか」


「確かに……!」


 それは考えつかなかった。少しテンションが上がる。


「私が、一人ずついいところをアピールしていこう」


「頼む」


「まずジョー。毒舌だし、お調子者だし、 性格悪いけど、割とイケメン」


「前半部分が辛辣すぎる!あいつにもいいとこあるよ!多分だけど!」


 なんで私がフォローしてるのだろうか。金ケ崎がいいところ言っていくって企画だよね、これ。


「そういえばこの前、マジックでノートに"唯我独尊"ってでかでかと書いたまま突っ伏してたな」


「こえーよ!」


 しかし、私はその光景を容易に想像出来た。


「次は永田。結構優しいし、佐久間先輩の漫画の推しキャラに似てるらしい」


「確かに漫画のキャラっぽいかも」


「BL らしいがな」


「佐久間せんぱぁあああい!?」


 佐久間先輩、腐女子だったんすか!?


「ちなみに、推しの彼氏はジョー似なんだと。ニヤニヤしてたな」


 リアルでBL妄想しないで!


「話を戻そう。永田は昨日、おでこに乗った眼鏡を探すことおよそ30分。天然君だな」


「教えてあげなよ……」


 私はやはり、その光景を容易に想像出来た。


「ぶちょーは爬虫類ヲタク。以上!」


「短い!失礼!」


 あまりの雑さに私はツッコんだ。


「あとは一年生だな」


「本当に終わるの!?」


「橋羽は敬語使えないし失礼だけど、なんやかんや憎めないいいやつだよなあ」


 金ケ崎がしみじみと言う。いつも橋羽君を注意し追いかけ回しているこの人の口から聞くと、なんとなくじんとくる。


「そうだね。いい後輩だよ」


「あれ、橋羽からメールが」


 金ケ崎がケータイを開く。


「なんて書いてるの?」


「今日部活休むから、ゼブラフィッシュの餌やりよろたん♡……だと……?」


 金ケ崎がわなわなと震えだす。


「前言撤回だ!ふざけるなああ!」


「お、落ち着いて!えっと、ほら、東野君がまだよ」


「あいつは橋羽君とは真逆だな。先輩相手に緊張し過ぎでよくわからん。体も弱くて心配だし……仕事はちゃんとやるし、いいやつなのは確かなんだが……」


「確かに。もうちょっと肩の力抜けばいいのに」


「この前テンパってジョーのことジェイソンって言ってたな」


「何そのチェーンソー持って徘徊してる感じ」


「よほど怖いんだろうな」


 まあ、唯我独尊野郎ですからね、無理もないわ。

 私はさっきから気になっていたことを金ケ崎に聞いた。


「金ケ崎、さっきから思ってたんだけど、ほんきでいいとこアピールする気ある?」


 金ケ崎は即答した。


「あるわけないだろう」


「ですよね!」

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