校則違反 その一

「あークソ、なんでドロップしねーんだよ!このチートもどきもウゼえ!レベル700ってなんだよ!どーせニートだろこいつ、働けよ!」


「ジョー、そのステージは双剣じゃなくて片手剣と盾のほうが相性いいよ……」


「俺、ターコイズ・秋刀魚・エリザベスソード、二本持ってるから一本あげるよ」


「サンキュー、橋羽。だが、敬語は使え!あー、やられた!永田、レスキュー頼む。報酬5000ピカで」


 ジョー、永田、橋羽君が夢中になっているのは今流行のスマホゲーム。本格アクションが売りらしいが……ターコイズ・秋刀魚・エリザベスソードってなんだ。石なのか、美味しい魚なのか、女王なのか。ツッコミどころが満載なのだが。


「おーい男子たち。スマホ使うの校則違反だよ」


「ヘーキヘーキ。ここにいるやつが黙ってりゃバレねーよ」


「まーね」


 橋羽が実験机の上に立ち、スマホを掲げる。


「クソ真面目の八島がいなかったらここは無法地帯だ!」


「あ、そーだ」


 女郎蜘蛛に餌(用務員さんにもらった駆除済み害虫)をやっていた寺峰が、メモ用紙を手渡す。


「八島さんからこれ預かってたんだった」


 みるみるうちにジョーと橋羽君の顔が引きつっていき、二人が呟く。


「マジかよ」


 気になって後ろからメモを覗き込む。


『生物室でゲームを楽しんでいる皆様へ

 私のいない生物室でゲームを楽しんでいるのは存じ上げております。私がいては尻尾をお出しにならないでしょうから、私もスマホの中から証拠を掴ませていただきます。

 ちなみに私のユーザーネームはeight islandsです』


「マジか……」


「ってか、eight islandsってさっきのチートもどきの激強ニート……!」


「ジョー、八島さんはニートじゃない」


「……ん。この人って八島さんなの……?」


 話に参加せず淡々とゲームを進めていた永田が不意に口を開く。

 橋羽君が画面を覗き込む。


「え、永田先輩、八島と一騎討ちデュエルしてんの!?先輩レベル500でしょ!レベル700相手とか秒殺され……てない?」


 永田はお得意のポーカーフェイスで、顔色一つ変えずに高速でスマホを操作している。


「なんでそのレベル差でまともにやり合えるんだよ!?」


 やはりなんでもないような口振りで永田が言う。


「ん、200くらいの差なら技術で補える……」


「へえー!そうなんだ!」


「いやいや無理だよ!」


 感心している寺峰に橋羽君がタメ語で突っ込むが、皆もう咎めることも忘れている。


「うわ!勝ちやがった!」


「結構強かった……」


「本来まともに戦えてるだけでもすごいんだがな」


「あれ、八島さんからメールだ……」


 あっけにとられているジョーを気にも留めず、永田がメールを開く。私もこっそり後ろから画面を覗いてみた。


『参りました。これからは師匠と呼ばせてください』


 永田がひょいひょいと指先を動かして返事を打つ。


『いいよ』


「いいんかい!」


 なんだか変なところに師弟関係ができちゃったよ。


「えー!師匠か!いいなあ、私も八島さんに師匠って呼ばれたい!」


「じゃあ寺峰もこのゲームやる……?」


「やります!」


 そう言うが早いか、寺峰はスマホを取り出す。そして男子の輪に加わった。

 私は心の中で叫ぶ。

 八島さーん! 生物部に ゲーマーが一人増えちゃったよ!


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