恋バナ……!?

「なあ鮎川、知ってるか?」


「何を?」


 放課後の生物室、顕微鏡で微生物を探していたとき、ジョーが神妙な顔で尋ねてきた。


「橋羽と八島が付き合ってるかもって話」


「ええっ!?」


 私が驚いて声をあげると、永田がそれに驚いてジョウロの水をこぼした。


「あっごめん、大丈夫?」


「うん……ウツボカズラの鉢に零したから大丈夫……そっちは何の話してたの……?」


「橋羽と八島が付き合ってるかもって話」


「!?」


 バッシャーン!


「あー……」


 永田はぶちまけた水を呆然と眺める。


「……まあ、いっか……」


「よくねーよ」


 ジョーに言われて、永田は渋々床を拭き始めた。


「でも、本当に……?

 一番なさそうな二人なのに……」


「そうだよジョー、どこ情報なの?」


「俺情報に決まってるだろ?」


「それは、信憑性あるね」


 ジョーの情報網は学校イチで、全校生徒の弱みを握っているという噂すらある。


「でも、まだ確証はない」


「というと?」


「手を繋いでるところとか壁ドンしてるところがが写り込んでる写真がSNSにあっただけで、付き合ってるって実際に誰かから聞いた訳じゃないんだ」


「十分クロじゃん。っていうかアンタ、そんなところまで見てるの?」


「俺レベルになると、自然に目が行くんだ」


「威張るなストーカーが!」


 そこで、私は永田がモヤモヤしたオーラを出していることに気づいた。


「どうしたの?」


「……八島さんに、彼氏……」


 永田がポーカーフェイスでウーンと唸る。

 ジョーがハッと気づいて言う。


「ま、まさか永田、八島のこと好きなのか?」


「それはない……」


「即答かよ」


「じゃあなんでそんな悩んでるの」


「彼氏、いい人ならいいけど……よりにもよって橋羽……」


 さらっとひどいこと言ったね。


「お前が気にする必要ねーだろ」


「でも……弟子だし……」


 永田は八島さんをゲームで負かして以来、八島さんのゲームの師匠である。(4話参照)

 まだその関係続いていたのか……

 ジョーがそれを聞いて、吹き出した。


「……なに?」


「いや、お前さ、それっていわゆる、『お前に娘はやらん』ってやつだろ」


 私も吹き出した。永田は固まっている。そして、いつまでも動かない。


「永田、今度はどうした?」


「なんか……爺臭い……」


 どうやらショックを受けていたようだ。


「元気出せって、八島だって付き合ってるって決まったわけじゃねえし」


 ジョーが言い終わらないうちに、扉が開いた。

 そしてーー橋羽くんと八島さんが入ってきた。


「八島、彼氏いるんすか〜!?まじか〜」


「いない。私にそんなもの必要ない」


 橋羽くんが茶化すのを、八島さんが迷惑そうに否定した。ジョーは首を傾げる。


「なあ、お前ら、この写真って……」


 ジョーが例の写真を見せると、八島さんはあっけらかんと言った。


「ああ、私が壁ドンで橋羽の退路を塞ぎ、手を拘束して連行しているところですね」


「なんでそんなことに……」


「橋羽が私のノートにジュースをこぼしたからです」


「だからって、反省文50枚書くまで監禁はねーだろ!」


 橋羽くんが嘆く。そこには甘い雰囲気は1ミリもなくーー


「あのー、二人は付き合ってたり……」


「「絶対にない」」




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