ああ、終わりなんだ

  • ★★★ Excellent!!!

生まれながらに超能力を持った3人の少女が、その力を持って自分たちを虐げた旧人類を断罪し、世界に終焉をもたらすSF作品。

書いてあることを字義通り受け取ればそういう話だが、個人的にこの物語は何かが終わりに向かうこと自体を寓話的に描いた話と受け取った。
人類にとっては一つの時代の終わり、老人たちにとっては人生の終わり、少女たちにとっては子供時代の終わりだろう。

何かが三つそろった状態は、お互いの関係が均衡し、最も安定していると言われている。
少女たちも、3人が同じでいられる間は穏やかな時間を過ごすことができ、外の人間に向けて力を使う必要もなかった。だが、訪れた一人の青年によってアカが力を失ったことで、均衡は崩れ去る。シロは一人で姿を消し、クロは外の世界を知るために青年とともに旅立つ。離れ離れになっていた少女たちはお互いを呼びあってどこかに飛んでいき、最後の時が訪れる。

こう書くと外から来た青年が全部悪いように感じるが、それはきっかけに過ぎず、どちらにしてもいずれ老人たちの命は尽きるし、三人の誰かの心も時間を経て変化していくだろう。あらゆるものは変化を免れず、各々に定められた結末へと向かっていく。これはそういう話なのだ。


テレパシーで意思疎通する三人は言葉を発せず、呼吸しか聞こえないほどの静謐さに満ちた空間の描写が印象に残る。
限りなく静的で変化を拒んでいるようだが、そんな中でも確実に時間は流れ今ある世界は壊れゆく運命にある。そんな嵐の前の静けさ。

最後が一抹の寂しさを感じさせるのは、三人がおじいさんとおばあさんの優しさに包まれて、おいしい料理を一緒に食べていたささやかな幸せの時間が二度と戻らないと分かるからだ。
それでも、その時は来る。誰にも時計の針を止めることはできない。

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