第8話

「よおし、絶対言うこと聞いてもらうからね。覚悟しといた方がいいよ?」


「それはこっちのセリフだ。そろそろ始まるぞ」


スタート前のカウントが始まり、緊張が高まる。

俺はタイミングを見計らってエンジンをかけた。スタートダッシュをするためだ。失敗すると大きなロスタイムとなってしまうのだが、何度もやった事があるのでおそらく成功する。


カウントが終わると同時に俺の車は勢いよく飛び出した。

それと同時に、華楓の車もスタートダッシュに成功していた。


現在の順位は俺が一位で、そのすぐ後ろに華楓が着いてきている。

俺はカーブをドリフトでポスッ。曲がる。

すぐさま次のカーブに差し掛かったのでもう一度ドリフトをポスッ。する。


……さっきからカーブ曲がる度に華楓の頭が俺の肩に当たってるんだが。

その華楓を見ると、上半身が車に合わせて揺れていた。可愛い。


ちなみに華楓の車にジャイロ機能は付けていない。


ゆらゆら揺れる華楓を眺めていると、いつの間にか俺の順位は最下位になっていた。

どうやら華楓を見つめている間ずっと、壁に向かって走り続けていたようだ。


「やっべ……やらかした」


「おバカさんだな〜、優は。……やったー!一位だー!」


俺が気づいた直後に華楓はレースを終えた。

かなり長いこと壁にぶつかり続けていたらしい。


「あと一本♪優に何お願いしよっかな〜」


「まだこれから。今のはただのハンデだ」


程なくして二レース目が始まった。

二レース目では、俺はとにかくゲームに集中した。何度も華楓の頭が当たったような気がしたが、無視して車を走らせた。


今度は無事に一位を取る事ができた。


「よし。これで並んだぞ」


「やるね、優。そうこなくっちゃ」


三レース目は運良く俺が得意なコースだった。


「悪いな、華楓。この勝負俺が貰った」


「うぅ〜、優ってこのコースいつも速かったよね……このコースで優に勝ったことほぼ無いよ……」


「まあ、最後まで頑張れよ」


正直、勝ちを確信したので皮肉っぽく華楓を励ました。


三レース目のカウントが始まる。

俺の得意なコースだからといって手加減はしない。それが勝負ってものだから。


カウントが終わり、スタートダッシュが決まる。

再び俺が一位で、後ろに華楓が着いている。

しかし、俺の方が経験値が上なので少しづつだが華楓との距離が離れていく。


三周目に入り、俺と華楓の距離はかなり離れていた。

俺は完全に油断していた。


だから、それに気づかなかった。


後方から飛んできた、一位のプレイヤーを狙撃する妨害アイテム。

しかもそれを投げたのは華楓ではなく、今まで相手にもならなかったCPUだった。


「やばい……」


自分のアイテム次第では回避も可能なのだが、あいにく回避アイテムは持ち合わせていなかった。

そのため、攻撃をまともに食らってしまう。


「いけるかも……」


隣で呟いた華楓の車の位置を見ると、俺のすぐ後ろまで迫っていた。

ようやく、俺の車が妨害から復帰し、再び走り始める。


俺と華楓の距離は目と鼻の先。

次のアイテムに結果が左右される。

せめて防御できるアイテムを。


そう願ってアイテムを取る。

手に入れたアイテムは──


コインだった。


最後の最後で神様は俺を見放した。


「甲羅食らえー!」


叫んだ華楓が投げた甲羅が俺の車に衝突する。

そのまま華楓は俺を追い越し、一位でフィニッシュ。


「ま……負けた……」


「やったー!二対一で私の勝ちだね!」


子供みたいに無邪気にはしゃぐ華楓。


一方で何を言われるのか怯える俺。


「それで……お願いはなんでしょうか、華楓様」


恐る恐る俺が尋ねると、華楓はうーんとしばらく唸ってから一言。




「あの……ちょっと膝枕してほしいな……」






あとがき


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