第11話

「よし、朝ごはんも終わったことだし勉強しよう」


「え〜、もうするの?もうちょっとゆっくりしようよ」


「ダメ。やるべきものは早くやっといた方がいいぞ」


「むー、優の意地っ張り」


口をとがらせながら愚痴を言う華楓。

駄々こねてる姿も可愛い。


「その代わり、午後はゆっくりできるから。勉強終わってから話したり、遊んだりしよう」


「ほんと?じゃあする!」


急にやる気モードになった。

チョロいとかは言わないお約束。




勉強をする華楓の手を横目で見ていた。

解いている問題のレベルや、正答率から推測すると華楓はうちの学校でもかなり上位に食いこんでくる程の学力がある。

ちなみに、桜本高校は県内でも一、二位を争う進学校である。


「もー、優が勉強するって言ったから私も付き合ってあげてるのに全然集中してないじゃん」


視線に気がついた華楓が咎めてくる。


「悪い、華楓頭良いんだなって思ってな」


「なんか馬鹿にされてない?私だって勉強はちゃんとやってるもん」


「いや、そういう意味じゃなくて、華楓の学力ってどれくらいなのか全く知らなかったから」


「なるほどね。そりゃまあ桜本高校に入学するために勉強頑張ったからね」


「ん、なんで桜本高校に拘ったんだ?別にこの辺なら他にも高校あるだろ」


「そ、それはその……まあ色々とね?」


赤く染まった頬を軽く掻きながら誤魔化された。


いや、その反応で大体分かるわ。


多分華楓は、俺がいるから桜本高校に拘ったんだと思う。

自意識過剰って思われるかもしれないが、一度、華楓は俺のことが好きということを知っている。


……まあたとえそれが間違いでもそう信じたい俺のただの願望なのだが。


おそらくこれ以上言及しても、理由を話してくれないと思うので、一旦この話は置いておこう。


「ふーん、なるほどな。悪い、話しすぎた。勉強に戻ろう」


「え、う、うん……そうだね……」


つっかえながら答えた華楓は少し落胆しているように見えた。




「ねえ、優。ここがちょっと分からないんだけど」


再び訪れた静寂を破ったのは華楓。

華楓が指さしているのは三角関数の問題だった。


「もうそこまで予習してるのか。ちょっと問題を読ませてくれ」


まだ高校二年の初めなのに、かなり進んでいた。

俺も今ちょうど三角関数が終わろうとしているところだったので、ほぼ同じくらいだ。


「なるほど、大体分かった。ここは三角関数の合成を使ってだな……」


「ん?ちょっとよく見えない……よっと」


不意に華楓が距離を詰めてきた。

肩と肩が触れ合う。

心拍数が一気に上がるのを感じた。

子どもの頃はこんなことでいちいち意識しなかったんだけどな……


「よ、よし。じゃあもう一回いくぞ。ここはこれをこうして……」


「あ〜、分かった。それにしても、優の予習早いね。まだ優は三角関数に入ってないと思ってダメ元で聞いてみたんだけど」


「勉強はそこそこやってるしな。逆に言えばそれ以外やることが無いのだけれども」


「優は真面目だなー。ちなみに、桜本高校での優の順位ってどれくらいなの?」


「ん、一位だが」


「え……なんでそんなにサラッと言うの……凄すぎるよ……」


「勉強なんてやれば誰でもできるしな。皆やらないだけなんだ」


「なるほど……よし、私も優に負けないように頑張らなきゃ。そうだ、学校が始まったときのテスト、勝負しようよ」


「お、いいな。それじゃあこれから俺たちはライバルか」


「そうだね。絶対負けないよ?」


「それはこっちのセリフだ。お互いテストまで一緒に頑張ろうな」


横にいる華楓に向かって拳を突き出す。

華楓もそれに応じて微笑み、拳をコツンと軽くぶつけてくれた。






あとがき


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