第3話
「と、泊まる?泊まるの漢字って宿泊の泊?」
「う、うん… もしかして今初めて知った?
由奈さん、とは俺の母のことだ。
それにしても俺の母から?そんなの聞いた覚えないぞ?
記憶を整理しながら、今朝勉強に集中するために切っておいたスマホの電源を入れる。
すぐにスマホが起動したので、親との連絡を遡るためにメッセージアプリを開く。
すると、昨日の夜には無かった一件の通知が入っていた。差出人は母だった。
『今日から華楓ちゃんがそっちに泊まるからちゃんとおもてなししなさいよ☆』
…色々と言いたいことはあるが、一番は送られてきた時刻。
今日の午前10時。
おもてなしさせるならもっと早く伝えとけよ…
頭を抱えていると、華楓が心配そうな目でこちらを見ていた。
「とりあえず理由はひとつも分からないが、華楓が今日からここで過ごすのは分かった」
そう言うと、華楓は発育の良い胸をほっと撫で下ろした。
胸に目が行ったのはやましい気持ちがあったからでは無い。多分。所謂男の性ってやつだ、許せ華楓。
下衆なことを考えている俺に気づかず、華楓は再び話を切り出した。
「じゃあ長くなるかもしれないけど一つずつ説明していくね」
──華楓が話してくれた内容を纏めてみる。
今年の三月まで他県にいた山口家だったが、父親の
華楓は元いた高校の寮生活を選ばず、俺と同じ桜本高校に転校することになった。
もちろん二年生が始まってから学校に行っていないので、俺はそのことを知らなかった。
山口家が地元に戻ってきて数日が経った三月二十日。この日は華楓の和也さんと華楓の母親の
この時点では日本、アメリカでのウイルスの影響は微々たるものだったので、「一週間ぐらいは大丈夫だろう」と日本人、もちろん華楓の御両親も油断していた。
そんな隙に発生した爆発的感染。たちまち世界各国が鎖国状態となり、華楓の御両親は日本に戻ってこられなくなってしまった。
華楓の親戚も離れたところに住んでいるため、華楓は一人日本に取り残されることになったのだ。
身の回りに頼れる人がいないと、もしウイルスに感染してしまった場合誰も助けに来られない。そうなってしまうと命の危険がある。
茜さんがこのことについて俺の母に相談したところ、母は華楓と俺の共同生活を提案した。
自分の子が年頃の異性と一つ屋根の下で暮らすのは親として気が引けそうなものなのだが、茜さんは『優也君なら安心できる 優也君さえよければ是非お願いしたい』と同意したそうだ。
華楓はこの話を事前に知っていたようで、華楓も同意したという。
それなのに、茜さんが『優也君さえよければお願いしたい』と言っていたにもかかわらず、俺には何の相談もなかった。おかしいだろ。
まあそんなこんなで俺と華楓の共同生活が決まったというわけだ──
「理由はこんな感じかな。優からなにか質問ある?」
「いや、大体聞きたいことは華楓が話してくれたから特に無いぞ」
「よかった。でもほんとにごめんね、迷惑かけちゃって」
「大丈夫だし、むしろ助かる。俺感染した時に頼れる人が近くにいなかったしな。昔からお互い様だろ?」
「うん、ありがとう…」
「あと、この家で暮らすことに遠慮しなくていい。そもそも、華楓と俺は遠慮するような仲じゃないだろ?」
「うん… そうだね、遠慮ばっかりするのも申し訳ないよね。よし、それじゃ、今後は一切遠慮しないから覚悟してね?後悔しても知らないよ?」
華楓が冗談交じりに微笑む。
ああ、俺が見たかった華楓がようやく戻ってきた。
あとがき
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