第2話

高鳴る心臓を落ち着かせながら華楓を家に迎える。


「お邪魔しまーす、わ、結構綺麗にしてるんだね」


先程まで俺に罪悪感を感じていたのか、申し訳なさそうに話していた華楓だったが、だんだんと昔のような快活さが戻ってきてあの頃と変わらないままの可愛らしいえくぼを浮かべながら笑った。


お前こそそういうとこ変わってないし、昔からずっと好きなんだよ。


思わず口に出しそうになったのを、すんでのところで心にしまう。


「まあ昔から綺麗好きだったしな。そんじゃ俺は飲み物用意してくるからその辺の椅子に適当に座っててくれ。紅茶かコーヒーどっちがいい?」


「気を遣わなくていいのに。じゃあ紅茶でお願い」


俺は華楓が紅茶を選んだことに少し驚いた。


「あれ、てっきりコーヒーって言うのかと思ってた。昔飲んでなかったか?」


──俺たちが小学2年生の時のある休日、俺はいつものように華楓の家に招かれた。華楓の両親と軽く挨拶をし、華楓の部屋に向かうと、華楓の机になみなみと注がれたコーヒーが入ったグラスが置いてあった。

「コーヒー飲める人は大人なんだよ!」と高らかに宣言した華楓はグラスを片手にグイッと。しかめっ面になりながらコーヒーを飲む華楓も可愛かった──


「あー、あれはなんというかちょっとした強がりで、大人アピールしてみたかっただけなの。本当はとっても苦手」


「俺もよく華楓の前では強がってたからよく分かるわ。無駄にかっこつけようとしてた記憶がある」


「あはは、何それ。お互い様だね」


「そうだな」


キッチンのカウンター越しに二人で笑い合いながら俺は二人分の紅茶を用意する。

壊滅的に料理ができない俺でも紅茶くらいはいれることが出来る。


紅茶を華楓の前に一つ、その正面に一つ置き、俺も椅子に座る。

「ありがと」と華楓は一言言って紅茶をすすり、ふうと息を吐いた。


先程までは混乱してあまり分からなかったが、正面から華楓を見るとかなり容姿が変わったことが分かる。

具体的に?そりゃむn……いや胸もそうだが、何より顔立ちが大人びている。鼻、口のパーツの美しさはもちろんなのだが、なんといっても華楓の目だ。吸い込まれそうなほど黒く澄んだ華楓の瞳は、肩にかかるきめ細やかな茶色の髪の毛と非常に相性がよく、荒野の真ん中に煌めくつがいのブラックダイヤモンドのようだ。

昔は可愛らしいというかどこか小動物を連想させるような雰囲気だったのだが、今はその可愛らしさを残したまま垢抜けた包容力のある女性といった印象だ。


「──ぇ。ねぇってば。」


華楓に見惚れていて完全に我を忘れていた。


「さっきからなによ、そんなジロジロ見て。私の顔に何か付いてるの?」


「い、いや、その、華楓も大人になったんだなーって」


「ふふっ、なんで年上目線なのよ。変なの」


そう言ってまた華楓は可愛らしいえくぼを作る。それ反則だろ。


「まあその話は置いといて、本題に入ろう。華楓は突然ここに何をしに来たんだ?」


「そうだね。それじゃあ事情を全部話すと長くなっちゃうから、先に結論だけ言うね」


そこまで言って華楓は一呼吸おいて再び口を開く。



「しばらくここに泊めてくれない……?」



「────は?」






あとがき


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