第9話

「膝枕……?そんなんでいいのか?」


「いーの。優の膝枕ってなんか落ち着くんだよね」


そう言って華楓は俺の腿に頭をコテン、と乗せた。

俺のシャンプーとは違うフローラルな香りがフワッと俺の鼻をくすぐる。


透明感のある美しい髪の毛が広がるのを見ると、無性に梳いてみたくなったので華楓の額と前髪を軽く撫でる。

髪はとてもサラサラとして、指をすり抜ける感触が非常に気持ち良い。


「優の撫で方優しくて好き。眠くなっちゃいそう」


幸せそうな華楓を見るともっと撫でたくなる。


「眠くなったら言えよ?布団用意するから」


「優の膝で寝たいから、眠くなっても黙って寝ちゃおうかな〜」


「それ俺が寝られないじゃん」


「あはは。冗談だよ。優もきつくなったら言ってね?」


「ああ、でも当分の間は大丈夫だ」


「優しいね、ただの私の我儘なのに」


「まあな」


辺りが俺が華楓の髪を撫でるだけの静寂に包まれる。

華楓は気持ち良さそうに目を瞑っている。

話すことが無くなって気まずい空気ではなく、心地の良い静けさだ。


──今日はとにかく激動の日だったな。


突然の華楓の来訪。一瞬誰だか分からなかったが、昔の面影と呼び方ですぐに華楓だと分かった。


華楓がしばらく泊まることになったこと。これは母が事前に説明しなかったのが悪い。うん。


華楓とスーパーまで買い物に行ったこと。柔らかな手の感触は今でも鮮明に覚えている。


華楓にご飯を作ってもらったこと。これは激動というよりは、美味すぎて驚いた。


華楓の裸と下着を見てしまったこと。しっかりと長期記憶の方に保存させてもらった。


華楓に膝枕をしていること。ちょこんと乗った頭がとても愛おしい。

もう一度、その可愛らしい顔を見ると、規則正しい寝息を立てていた。


「やれやれ、眠くなったら教えろって言ったんだけどな」


ソファに転がっているクッションを華楓の頭と俺の膝に入れながら、俺は膝をそっと抜く。


押し入れから来客用の布団を一式取り出し、リビングに敷く。


その上に華楓を横抱き、通称お姫様抱っこで運び、そっと寝かせる。

布団をかけ、最後にもう一度軽く頭を撫でて俺は自室に戻る。


「おやすみ、華楓。明日も一緒にいような」







あとがき


少し短めです。

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