「始まり、そして旅立ち」1 奪還1


* * *




 暗くなった中、街灯の明かりを頼りに家族と歩いていた。ウィングエッジの商店街で夏の暑い中、サントモス山からくる風と、晴れた夜の比較的過ごしやすい時間帯に街中を歩いている事が気持ちいい。


「美味しかったわね。レストランの料理、とっても良かったわ。やっぱり家族で食事っていいわね」


 家族でのレストランの食事。リーン・アイワナベックは、夜の街を帰宅がてら家族で散歩している事と、レストランで食事を取った事に満足していた。


「あー、美味しかった。でも、お姉ちゃんのお魚も美味しそうだったな。食べたかったな」


 リーンの妹のシェーンが、 レストランを出た後も食い意地を張っている。普段は食事を気にしているくせに、美味しい物を目の当たりにすると食べたいという欲求が爆発するシェーン。


「何言ってるの、シェーン。あなただって自分のお肉美味しそうに食べてたでしょう」


 そんな妹のシェーンに、姉のリーンは呆れ顔でいる。それでもシェーンは、


「だって食べたいんだもん。ぶ~、」


 と顔を膨らませていた。


「はっは、シェーン、今度は満足する物を頼みなよ」


「またウィングエッジの商店街のレストランに来ましょうね」


 リーンとシェーンの父と母はそんな娘達を微笑ましく眺めている。家族揃っての休日に、皆がほっとした時間を感じていた。


「食べたかったなぁ~」


 シェーンがまだそんな事を言っているその時、リルクントン材木店の辺りにリーン達家族が通りかかったら、そこには……。


「――!?あれ、あそこ!リルクントン材木店の辺り!誰か倒れているんじゃない!?」


 リーンは、誰かが倒れているのを発見した。上を向いて気絶しているように見える。リーンはその者に駆け寄り、驚愕の声を上げた。


「ニッシュじゃないの!?」


 そこに倒れていたのは同級生のニッシュだった。


 親友のミシェルから今日はニッシュとデートだと〈電話〉で聞かされていたリーンは、周りを探したが、ミシェルはどこにもいない。取り敢えず、ニッシュの安否を確認する。


「ニッシュ、ニッシュ!大丈夫!?ニッシュ!」


 ニッシュを揺さぶって起こそうとしたがなかなか返事がない。リーンの家族も何事だ、リーンの同級生かと慌ただしい中不安も押し寄せてくる。


 とその時、ニッシュの体がピクッ、ピクッと動いた。これは大丈夫、生きているかも、とよく確認したら、呼吸もしているようで意識を回復するかもしれない。リーンはニッシュを助けようと必死でいた。


「ニッシュ、大丈夫!ニッシュ!」


 必死にニッシュの名を呼ぶリーン。その時、ニッシュが何かを喋ろうとしていた。


「――シェル……シェル――ミシェル――」


 ミシェルの名を呼んでいた。やはりニッシュはミシェルと一緒に居たのかとリーンは思う。だけど何かリーンは不安が拭えない。


「ニッシュ、ミシェルと一緒に居たの?ミシェルはどこ?ニッシュ!」


 ミシェルの名をリーンも叫んでいた。するとニッシュは突然叫び出した。


「――ミシェル!!」


 ニッシュは大声でミシェルの名を叫んだ。リーンはニッシュを心配している中ニッシュが大声を叫んだ事に驚く。するとニッシュの目が開いて、はぁはぁと苦しそうに呼吸しながら自分の状況を何とか把握しているようだった。ニッシュの意識が辛うじて戻った事をリーンは悟った。


「ニッシュ、大丈夫!」


「――リーン――か……何でここに、リーンが――」


 ニッシュはどうやら会話も出来るようだ。


「もうニッシュがウィングエッジの商店街の一角に倒れているんだもの。私凄く心配したわ。今日はミシェルとデートじゃなかったの?」


 この言葉を聞くと、倒れているところから起きたばかりのニッシュがさらに血相を変えた。


「――!そうだ、ミシェル!ミシェルがさらわれたんだ!」


「さらわれた!?」


 さっきまで倒れていたニッシュがとんでもない事を言う。ミシェルが、さらわれた!?


「四人組の男達と黒衣の男って奴に、ミシェルがさらわれたんだ!警察や、ミシェルの家族に〈電話〉を!」


「そんな、ミシェルはどこ!?」


「分からない。警察とミシェルの家族に連絡しないと!」


 ニッシュは〈電話〉を取り、まずはミシェルの家族に連絡を取る。


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