「始まり、そして旅立ち」1 奪還3


 ミシェルの家では、ミシェルに徒ならぬ出来事が起きたとして、今にも慌てふためきそうなところを、ジョニーが落ち着こうという雰囲気を出して、尚且つ「今から忙しくなる、これからミシェルを助けに行く。ケニーとビルは、留守を頼む!大丈夫だ、ミシェルは、きっと無事だ!」と一家の長としての役目を果たそうとしていた。


 ビルは、そんな父、ジョニーに聞いた。


「姉ちゃん、さらわれたんだろう?」


「ああ」


「俺も助けに行く」


 ビルは、「だってさ」と続けて、


「〈電話〉で話してたの聞いてたとこだと、ニッシュも助けに行くんだろう?姉ちゃんのボーイフレンドが助けに行くんなら、姉ちゃんの弟も助けに行かなくちゃな!」


 ビルは、自信たっぷりに、それでいて姉を本当に心配して言った。父であるジョニーは、一度「ふぅっ」とため息をついてこう言った。


「分かったよ。ビルもニッシュも、立派なレイピア術使いだ。そんじょそこらのゴロツキよりはずっと強いだろう。だが、警察にも連絡して、ミシェルを助ける為にはまずはミシェルのGPSを辿れるかどうかだ。それで助けるぞ!」


「ああ、分かった。ところで父さんよ、GPSって、本人の許諾なしに〈電話〉で確認できないんじゃなかったっけ?」


「こんな事もあろうかと、ミシェルの〈電話〉をGPSも含めて調べつくしておいたんだ!」


 ビルは、こんな時に(この父親は!?)とあろうことか疑いを掛ける。ケニーも(この人らしいわね……)と不安で一杯なのに自身の夫を疑う。しかし(だからミシェル〔姉ちゃん〕は助かるかもしれない)とこの場面ではいいのかもしれない、と自分達にそれぞれ言い聞かせた。


「じゃあ、書斎に行って、ミシェルの〈電話〉のGPSを辿れるかやってみるよ」


「分かった」


「あなた、頼んだわよ!」


 ジョニーは自分の書斎へ行きコンピューターを起動した。モニターがブゥーンと音を立て、映し出されていく映像にはブーメラン大陸、セントシュタイン山脈、カーウェン国、サントモス山、ミシェル達の住むレオンハルトシティーと拡大されていき、モニターに映し出された地図には――。


「あった!見つけた!ミシェルの〈電話〉、サントモス山の麓の森の中にある!」


 ジョニーはミシェルの〈電話〉のGPSを辿って〈電話〉がある場所を見つけた。ビルとケニーが「やった!」「見つけたのね!」と歓声を上げる。ジョニーは改めてミシェルの〈電話〉のある辺りを衛星写真で見ると、建物が建っているのが分かった。


「こんな所に建物が……ミシェルはきっとこの建物の中にいるんだ」


 ミシェルを心配するジョニー。ビルは「早く助けに行かないと!」と急かす。


「いや、準備をしっかり整えてから助けに行く――まずは、警察に連絡だ」


 ジョニーはそう告げると、自身の〈電話〉を手に取り警察への番号を押した。


 トゥルルルル、トゥルルルル


「あっ、警察ですか。私、ジョニー・ロングハートという者ですが……そうです、レオンハルトシティーでレイピア術の武術館を持っているジョニー・ロングハートです……ええっ、マスタークラスの……あっ、いや……それで、今回電話したのは、私の娘ミシェルが何者かに誘拐されたようで………はい……はい……それで、警察に出動を願います。それと、ミシェルの〈電話〉の位置情報をGPSで辿れましたので、その情報をお送り致します……はい……はい……では、よろしくお願い致します」


 ぷつっ


 ジョニーは警察への〈電話〉を終えると、コンピューターを使い警察にミシェルの〈電話〉の位置情報を送った。ミシェルの〈電話〉が動いても分かるように情報も更新できるようにして。さらに自身の〈電話〉でいつでもどこでもミシェルの〈電話〉の位置情報が分かるようにした。


 そしてジョニーは、ビルに「武術館に行って道着を着よう。ビルも、レイピア術をする格好をしなさい」と告げる。


「おっ、じゃあ!」


「ああっ、武術館にあるレイピアを持って、ミシェルを助けに行く!」






 ブロロロロロロッ……


ジョニーの運転で、ビルと共に車でロングハート家の武術館に到着した二人。ジョニーは、夜の武術館に灯りを燈す。


「ビル、まずはレイピア術で動きやすい格好に着替えるぞ。武術館にも自分の防具あるだろう」


「分かった」


 ビルは、武術館の更衣室でレイピア術の防具の下に着る服を着ると、その上にレイピア術の防具であるレザーガードとフットガードを更に着た。ジョニーはその日レイピア術の鍛錬で着ていた物のスペアで、白いハーフスリーブの道着を羽織り黒いハーフパンツを履いた。


「よし、着替えたな。じゃあ、持っていくレイピアを選ぶ……レイピアは――」


 ジョニーはそう言ってあるレイピアを掴んだ。


「――これだ」


「――金属製のレイピア!」


 ジョニーが手にした金属製のレイピアに、ビルは本当に実戦でレイピア術を使う覚悟を知る。


「レイピアは金属製でも、闘いには勝っても相手の命を奪うようにはあまりできていない。先端が丸みを帯びている。それでも金属製のレイピアは、十分な破壊力を持つ強力な武器だ――今日はこれを使わせてもらう」


 その決意に父、ジョニーが本気になっている事をビルは知る。ビルは姉、ミシェルの奪還作戦が始まるのを感じた。


「――ウッドレイピアの方が使いやすいんだけれど――金属製のレイピアか、気合入れなきゃな!」


「ニッシュにも金属製のレイピアを持っていこうか……全部でレイピアは三つだな。ニッシュはリルクントン材木店のウッドレイピアを借りたって言っていたけれど、返さなくちゃな」


 ジョニーは自身の車に金属製のレイピアを三つ積むと、ビルにこう告げた。


「さぁ、ニッシュと合流しに行こう」




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