「始まり、そして旅立ち」1 ミシェル2

「ふぅっ」


―――私は、頭用の防具――ヘッドガードを外してから、水を飲んで一息付いた。ヘッドガードを外すと、長い巻き毛がかった私の金髪が、〈ぶわぁっ〉とあふれ出す。


私の名前はミシェル・ロングハート。今月十七歳になったばかり。金髪で青い瞳のうちの家系は、どこに居ても目立つの。私も小さい頃はなんにでも目立って、少し自分の容姿が嫌になっちゃたんだけれど、もう慣れっこになっちゃった。


そんな私が今やっていたのは、昔からの伝統のレイピアを使った槍術。もともとレイピア術は剣術の発想から生まれたんだけれど、剣術を槍術に融合させた新しい武術というのを提唱した人がいたの。そして、レイピア術が槍術だと定められてから、もう四百年以上の歴史があるらしいの。今は創世暦二千八百二十八年だから、創世暦二千四百年頃興ったのかしら?


「くそう、また負けた!」


「まだまだ甘いわね、ビル」


「ちっ、姉ちゃんの馬鹿力め!」


「何だってぇ!?ビル!!」


私を姉ちゃんと呼んだこのちょっと生意気なやつは、私と年が三つ離れた弟、ビル。私のレイピア術の相手をしていたのはこの子で、学校の学年は私と二つ違うのだけれど、ビルは早生まれのため、私とビルは今、年が三つ離れている。


この子は、この間まではてんで私に勝てなかったくせに、今年になってからは体格も良くなってきて、私も手こずる様になってきた。まぁ、それでもまだ私は勝っている。


「まぁよ、――ところで姉ちゃん」


「何よ?」


「あのさ……」


「だから、何よ?」


「『ニッシュ』とは、最近どうなってんだ?」


――(!?)――……『ニッシュ』という名前に、私は思わず動揺して、きっと赤面していただろう。ニッシュというのはそもそも、私を好きと言ってくれた、同じ街の、同じ学校に通っている私と同級生の男の子……。


「彼とは……」


「彼とは?」


「今度、デ、デデ、デ……」


思わず取り乱してしまった私は、次の一言が言えない。するとビルが、


「『デ』、の次は何だよ。はっきりしろよ!」


と言うので、私はとっさに、


「今度デートすることになったの!」


と、つい一気に喋ってしまった。ビルは一瞬真顔になって、そしてすぐに(面白がるようにして)ピューと口笛を吹いて言った。


「やるじゃん、姉ちゃん!で、デートしようって言ったのは、ニッシュ?姉ちゃん?」


「もう!!ビル、そんなこと聞かないで!レイピア術の稽古も終わったし、そろそろ帰るわよ!」


そんなビルのプライバシーのかけらもない問いに、私はそっぽを向いてしまった。


―――家に帰れば、父と母が待っている。

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