「始まり、そして旅立ち」1 襲撃4
「来た。〈あの方〉だ」
その人影らしき姿にコウモリ達が集まり始め、やがてそのシルエットは徐々に近づき、百九十センチメートルはあろうかという大きな体躯の持ち主が表れた。
「この男達の、仲間!?」
「また現れたってのかよ!」
リーダーの男は、安堵したかのように「任務、遂行致しました」と新しく現れた者に向けて言った。
「ご苦労であった――後は私に任せよ」
――その男は、いざ近くで街灯に照らされているのを見ると、大きな体躯もそれだが、全身黒ずくめの服を着ていた。髪や瞳が黒いのも、男の身なりに拍車を掛けていた。しかし、男の服装は動きやすさを重視していて、風になびくように翻していた黒のマントを除けば、首の先から靴元まで実に動きやすそうな格好だった。
「誰だっていうのよ!何の用!?」
「ミシェルには、指一本触れさせないぞ!」
その男は、近くにあった木の棒を手に取り、こう言った。
「お前達には、これぐらいでよいかな」
「――!?」「――!!」
男はそう言うと、軽く曲げた右手を体の前に出してその手で木の棒を長く持ち、構えの姿勢を取ってこう言った。
「私の事は、黒衣の男とでも呼んでもらおう。さぁ、かかってこい」
ミシェルとニッシュは、黒衣の男の行動に驚きと不安を隠せずにいた。おそらくこの黒衣の男は、ミシェルとニッシュが手下を倒した事を分かっているはずなのに、ただの「木の棒」を手に取った事がどこか不気味だった。
「その木の棒で私達と戦おうっていうの……!?」
「ウッドレイピアは、ただの木の棒とは一味違うんだぜ……!?」
二人は、黒衣の男から間を取りその動きを注視した。黒衣の男は二人に相対して右手に木の棒を長く持ち、微動だにせず、目だけがギラギラと二人を注視していた。しかし、その姿からは圧倒的な威圧感が発せられ、ミシェルとニッシュは数的優位にも拘らず、黒衣の男の発するオーラの様なものから逃れられず先の手を取れずにいる。
(隙が……ない!?)
(何だっていうんだよ!この威圧感は――!?)
黒衣の男の発する圧倒的なオーラに飲まれながらも構えの姿勢を取る二人を尻目に、一歩も動かず、ただ圧倒的なオーラを放ち続ける黒衣の男。この平和な時代に、歴戦の威圧感を発する異端児の存在がいることをミシェルとニッシュはひしひしと感じていた。
「黒衣の方、私はどうすれば……」
傍で見ていたリーダーの男が、黒衣の男に話しかける。黒衣の男は、ただ「お前はそこで見ていればいい」とだけ言った。リーダーの男は「はっ、分かりました!!」と了解の返事をする。
「――!――今だ!!」
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