「始まり、そして旅立ち」1 襲撃3


「何だと!?狙っておいて、自分達の都合のいいようにはいかないぞ!」


 リーダーの男の答えにニッシュも荒ぶる。リーダーの男は、服の中に手を入れ何かを取り出そうとした。


「〈電話〉か!?させないぞ!!」


「そんな暇与えないわ!」


 ニッシュとミシェルはリーダーの男の行動に注視する。〈電話〉を掛けようとしたら即叩き落とす勢いだ。しかし、リーダーの男は「どうかな」と落ち着き払った雰囲気で服の中から取り出した物で何かをした。


「させないわ!」


ミシェルはウッドレイピアでそれを叩き落とした。しかしリーダーの男は落ち着き払っていた。


「もう遅い」


 ブゥゥゥゥゥン


 リーダーの男の手から叩き落とした物は、静かな起動音を立ててその場に転がっていった。


 ――通常、〈電話〉は起動して、話す相手を選んでから通話をする。しかし、ミシェルがリーダーの男の手から叩き落としたそれは、手に取った後に直ぐに起動音を立てて動き始めた。


「これ〈電話〉じゃない?!」


「今何をした!?言え!」


 ミシェルとニッシュの詰問に、リーダーの男は「ふっふ」と余裕の表情を見せる。そしてこう言い放った。


「それは衛星測位システム、GPSを起動した」


「何だと!?」


「GPS!?衛星測位システム!!」


 ミシェルは心当たりがあるようだ。ニッシュに少し詳しく説明する。


「父さんが、位置や場所が分かるんだって言ってた。〈電話〉にもあるみたいだけど、起動しないと動かないらしいわ」


「起動したんだろ!じゃあ、ここを離れないと!こいつらの仲間が来るかも!!」


 ミシェルとニッシュの発言に、リーダーの男が反応して喋り出す。


「我らが、ただのGPSを使うと思うか?もうどこへ行ってもお前達は我らに追われる身だ」


 その時「キィキィ」と何かが鳴く音がした。すると、いつの間にか数匹のコウモリが、窺う様にミシェルとニッシュの周りを取り囲み飛んでいた。


「なに!?このコウモリ!!」


「何をした!?」


 二人が戸惑っているのを尻目に、リーダーの男は静かに答えた。


「それはコウモリ型偵察機。我らが開発した、動物型機械の一種だ」


「――!?」


「何だと!?」


 それを聞くと、ニッシュは空中のコウモリをウッドレイピアで叩き落そうとした。しかし、そのコウモリはヒョイ、ヒョイとニッシュの攻撃をかわし、機械で出来ているとは思えない程身軽に動き回る。


「くそっ、すばしっこい!」


「GPSの元を壊せば!」


 ガゴッ!!


 ミシェルはリーダーの男から叩き落とした物に、ウッドレイピアで上から突きを入れ破壊した。しかし機械で出来たコウモリ達は、まだミシェルとニッシュの周りを監視する様に飛び回る。


「もう、何なのよ、このコウモリ達!」


 状況が変わらない事に焦るミシェルに、リーダーの男は追い打ちを掛けるように言う。


「無駄だ。そのコウモリ達は顔を覚え、一定の距離を保ってどこまでも追ってくる。それに空を舞っている為、地上から狙っても落とせるものでもない―――それに、間もなく〈あの方〉がここに到着なさるだろう。さすれば、少年と娘、お前達とて敵うものではない」


 その時、夏の終わりも押し迫った夕闇の中、ウィングエッジの商店街の向こうに、人影らしき姿が見え始めた。



「来た。〈あの方〉だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る