「始まり、そして旅立ち」1 襲撃6
ニッシュは黒衣の男に対し左足を前、右足を後ろに軽く曲げ、ウッドレイピアに左手を前、右手で根元を持ち、右肩と顔の右辺りに掲げ、構えの姿勢を取って臨戦態勢を取る。
「……やる気か、少年よ――だが大丈夫か?……お前よりその娘の方が実力があるのであろう――少年、お前ごときで果たして私が倒せるかな……?」
黒衣の男の挑発にもニッシュの思いは一つ。
「――ミシェルは、渡さない!!」
ニッシュはただその思いだけだった。
「ニッシュ、気を付けて!」
ミシェルはニッシュが心配で声を掛けるが、ニッシュはただ構えの姿勢を取り、どこか凄みを帯びていた。
「――少年よ、では、遊んでやろう」
黒衣の男は余裕を見せ、また右手に木の棒を持ち先程と同じく構え出した。
「――ミシェルは、渡さない!!」
「――来い」
黒衣の男の挑発だが、ニッシュはただミシェルを守りたい一心で立ち向かっていく。
「――ハァァアッ!」
ニッシュは雄叫びを上げると、黒衣の男に強烈な突きの連撃を浴びせた。
「ハァッ!ヤァッ!セイッ!ヤアッ!」
ニッシュは全ての力を振り絞り、さっきとは比べ物にならない程、強く、早い連撃を黒衣の男に向けて放つ。
(――ほうっ、怒りで、自分の能力が高まっているのか……)
黒衣の男は急に激しくなったニッシュの連撃を、その驚異的な身体能力でかわしていく。
(――だが、しかし)
ガグォゴォォッ!
黒衣の男はニッシュの連撃の一瞬の間を狙い、ニッシュのウッドレイピアを弾き飛ばした。ニッシュは辛うじて右手にウッドレイピアを持っていたが、身体が大きく開いて隙が生じる。
「さらばだ、少年!」
黒衣の男の木の棒が今、ニッシュに向けて振り下ろされる。
しかし、ニッシュは極限まで集中力を高め、自分の危機にも素早く対応していた。攻撃から防御、相手の攻撃をかわす事も、この時には力が発揮される。
グオォォンッ!
ニッシュはウッドレイピアを弾かれたまま体を反転して、黒衣の男の攻撃をかわした。
黒衣の男が持つ木の棒が、轟音と共に空を切る。
ニッシュは一度距離を取り、体勢を整える。黒衣の男はニッシュの対応にやや驚き、そして称賛の声を上げた。
「ほうっ、私の攻撃をかわすか。なかなかやるな、少年よ」
黒衣の男の挑発にも、ニッシュの思いは一つだった。
「――ミシェルは、渡さない!!」
「本気で来い、少年よ」
「――ハァアッ!」
ニッシュは再び黒衣の男に強烈な連撃を浴びせる。その中で、ニッシュはある事を考えていた。
(――こうなったら――!!)
黒衣の男はニッシュの連撃をかわす。同じ手は食わないと今度は反撃の用意をしていた。
(少年よ、それでは私には勝てぬぞ!)
そして黒衣の男の木の棒が、再びニッシュに振り下ろされた!
(――今だ!)
(――!!あれは!)
「ハァァアッ!」
ニッシュは黒衣の男の攻撃を体を反転させながらかわし、レイピア術の技を駆使した左肩付近への一閃を黒衣の男に浴びせた!
「ぐはうっ!」
黒衣の男はまさかの一撃に、苦悶の声を上げる。黒衣の男はニッシュから距離を取り、右手で左肩付近を抑えて苦しんだ。
ミシェルはニッシュのこの技に見覚えがあった。そう、あの時の技。
「ニッシュ!今の一閃は!!中等学校三年の大会の時の!」
「ああ、俺なりに手応えを感じてて、技を磨いてきたんだ!」
「凄い!凄いわニッシュ!」
二人が称賛の声を上げる中、黒衣の男は衝撃と憎しみが混じった目でニッシュを見ていた。まさかニッシュが自分に一撃を食らわせるとは思ってもみなかった黒衣の男は、静かに佇み傷を庇っていたが、内心激昂していた。
(この左腕、今使えるのは……あと数回か……)
黒衣の男は、歴戦の記憶を呼び起こし、今勝利を収めるためにできる事を整理する。
「――少年よ、名は」
黒衣の男に呼び掛けられる。ニッシュは迷ったが、自分の名を答えた。
「ニッシュ・スタインシェン」
「――そうか。私の名は捨てた身、伝えることは出来ぬが、ニッシュ・スタインシェン、お前の名は覚えておこう」
黒衣の男はそう言うと、左足を前、右足を後ろに軽く曲げ、左手を前、右手に持った木の棒を胴の横に持って掲げ、構えながらこう言った。
「――私も、少し本気を出させてもらおう。気付いていると思うが、私が使う武術はレイピア術ではない。お前達には敬意を表して、私の力の一端を見せよう――もう、少しも侮れぬぞ!」
そう言った黒衣の男からは、さっきにも増して圧倒的なオーラ、闘志が、黒衣の男の体中を駆け巡っているのが分かった。
(くそっ、まだ終わらないか――!)
「ニッシュ、無理しないで!気を付けて!」
そして、再び開戦の狼煙を上げる。
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