朝ドラ化希望!二度と戻ってこない『恋』と『家』の時間を過ごす最後の八月

結婚が決まっている従姉のお姉さんに恋をしてしまった男子高生のお話です。
普通であれば引き下がるしかないところを、主人公・陽輝は想い人・朱里に対して宣言します。「夏休みの間だけ、恋人になって」と。
これが『恋をするなら八月に限る』というタイトルの、大元の意味です。

かくして期間限定の『恋人』をすることになった二人ですが、大人の朱里が子供の陽輝にぐらっとくる……なんてことはありません。
二人がこの夏したことと言えば、子供の頃の延長線上にあるような山遊びや川遊び、そしてお家のお手伝いばかり。
とても『恋』とは言い難い関係なのですが、それを通して見えてくるものがあります。

結婚とは、違う家と家を結び付けるものです。
陽輝と朱里は「同じ家に属する二人」なのだと、エピソードが進むたびに実感しました。
家族の在り方、役割、空気感。嫁いでしまう朱里にとっては、この『家族』で過ごす最後の夏です。その風景の中に陽輝がいたんだなと思いました。

広島弁のセリフに情緒があります。
田舎の家の良いところやそうでないところがリアルです。
何よりも、言葉では明文化しづらい繊細な感情が見事に、丁寧に描き出されていくのが素晴らしい。

夏休みと共に、『恋人』の時間も『家族』の時間も終わりました。
『恋をするなら八月に限る』。読了後にタイトルを見返すと、いろいろな意味が溢れてきます。
どこか切なくて清々しいラストです。ぜひ朝ドラでやってください。
本当に良いものを読んだと思える、素晴らしい作品でした!

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