高校一年生の陽輝は、七つ年上の従姉・朱里のことが好き。しかし、彼女には結婚を決めた相手がいた。
それでも初恋を諦めたくない陽輝は、朱里に「八月限りの交際」を申し込む。
「必ず俺のほうがいいって思わせる」と意気込む陽輝は、朱里を振り向かせることができるのか――。
陽輝が住む広島市と、朱里が住む北広島町を舞台にして、ひと夏の物語は進んでいきます。
朱里の心を変えたい陽輝と、自分の結婚を陽輝にも祝福してほしい朱里。八月の間に限定されたお付き合いをするうちに、陽輝は今までに挑戦したことがないさまざまな壁にぶつかり、新しい経験を積んでいきます。
好きな人に尽くしたくて始めたアルバイト、初めて知った仕事の責任、朱里の家の大人たちの手伝いに、幼い頃にはできなかったキャンプ……満天の星空のような思い出が、キラキラと煌めく夏の終わりまでに、二人の気持ちがそれぞれどんな場所にたどり着いたのか。ぜひ、夏の間に成長していった陽輝と一緒に、この夏の先にまだまだ続いている季節へ飛び込んでみてください。ほろ苦くも爽やかな読み心地のヒューマンドラマでした。
結婚が決まっている従姉のお姉さんに恋をしてしまった男子高生のお話です。
普通であれば引き下がるしかないところを、主人公・陽輝は想い人・朱里に対して宣言します。「夏休みの間だけ、恋人になって」と。
これが『恋をするなら八月に限る』というタイトルの、大元の意味です。
かくして期間限定の『恋人』をすることになった二人ですが、大人の朱里が子供の陽輝にぐらっとくる……なんてことはありません。
二人がこの夏したことと言えば、子供の頃の延長線上にあるような山遊びや川遊び、そしてお家のお手伝いばかり。
とても『恋』とは言い難い関係なのですが、それを通して見えてくるものがあります。
結婚とは、違う家と家を結び付けるものです。
陽輝と朱里は「同じ家に属する二人」なのだと、エピソードが進むたびに実感しました。
家族の在り方、役割、空気感。嫁いでしまう朱里にとっては、この『家族』で過ごす最後の夏です。その風景の中に陽輝がいたんだなと思いました。
広島弁のセリフに情緒があります。
田舎の家の良いところやそうでないところがリアルです。
何よりも、言葉では明文化しづらい繊細な感情が見事に、丁寧に描き出されていくのが素晴らしい。
夏休みと共に、『恋人』の時間も『家族』の時間も終わりました。
『恋をするなら八月に限る』。読了後にタイトルを見返すと、いろいろな意味が溢れてきます。
どこか切なくて清々しいラストです。ぜひ朝ドラでやってください。
本当に良いものを読んだと思える、素晴らしい作品でした!