第13話 姉妹&ゲーム②

「ハジメ、あそこ!」


 走りながら、リーシャが前方を指差す。

 大通りから少し離れたマンション街。

 既に夜ということもあって、周りに人の姿はない。

 だが、代わりに妙なものがいた。

 サボテン。いや剣山人形とでも言った方がいいだろう。

 足先から頭部に至るまで、全身を黒いトゲに覆われた、成人男性ほどの身長の人型の悪魔がそこにいた。


「こういうタイプもいるのか......」


 今までの悪魔は、あからさまにクリーチャー染みた姿をしていたので、こうした人に近い外見────とはいえ十分人間離れした見た目だが────の悪魔を見るのは初めてだった。


「まあ、なんであれ、被害が出る前に倒すだけだ」


 ハジメは、右手を掲げる。

 それに合わせて、リーシャも尖塔を作った。

 魔装具は、魔術によって魔力を変化させて作るものである。

 悪魔同様、魔力への適正を持たない人間には視認することはできないが、魔力に形を持たせる過程で、その世界に干渉する必要があるため、魔装具を作るには騎士を介さなくてはならない。

 ならば、騎士と契約していない悪魔はなぜ、肉体を保つことができるのかというと、悪魔の肉体を構成している闇の魔力そのものに、周囲の世界の法則を捻じ曲げる力があるからである。

 最もこれに関しては、まだハジメも知らないことであったが。 


 手の甲に紋章が現れ、さらにそこから火球が出現する。

 火球は姿を変え、鞘に納められた両刃の直剣となった。

 剣を鞘から抜いて、鞘を腰のベルトに差し、ハジメは剣を構えた。

 そして、悪魔に向かって、突っ込んでいく。


「はあっ!」


 一閃。

 真紅の軌跡が悪魔の体を捕え、攻撃を受けた箇所のトゲが砕け散った。

 さらに、ハジメは連撃を重ねていく。

 悪魔の全身を覆うトゲが次々に砕け、そこから黒い粒子が漏れ出してきた。


「よし......いける!」


 自身の攻撃が効いていることを確信し、ハジメは一気に畳み掛けようとする。

 だが、悪魔は突然身を翻すと、大きく飛び上がった。

 まだ体に残っているトゲをスパイクの様にして、そばに立っているマンションの壁に張り付くと、そのまま何度か垂直に飛び上がり、みるみるうちに壁を登っていく。

 

「待て!」


 マンションの階段を上り、ハジメとリーシャは悪魔の後を追った。

 そして、屋上へと出て目を見開く。

 悪魔は屋上にいた。

 傷ついた体からは未だ、自らの体を形作る魔力の粒子が漏れ出している。

 だが、さっきと決定的に違うのは、同じ姿の────最もこちらは無傷であったが────悪魔がもう一体いたという事だ。


「に、二体......!?」

 

 予想外の事態にハジメも警戒を強める。

 複数の悪魔を相手にしたことはない。

 だが、だからと言って引くわけにもいかなかった。

 ハジメは、弱っている方の悪魔に向かって突進し、剣を振るう。

 とにかく、まずは数を減らすべきだと判断した。

 一撃、二撃と攻撃を重ねていくが、途中で二体目の悪魔がびっしりとトゲの生えた拳で殴りかかってきて、やむなく攻撃を中断し身をかわす。

 しかし、その間に態勢を立て直した、一体目の拳が迫ってきて、ハジメは大きく後ろに飛びのいた。

 直撃こそ避けたが、完全にはかわし切れず、肩口を服ごと切り裂かれ、傷口から血がにじみ出る。


「くっ......!」


 傷口の痛みにハジメは顔をしかめる。

 二体の悪魔は、ハジメを挟むように両サイドから襲い掛かってきた。

 なんとかハジメも応戦するが、手数で上回られていることもあり、攻撃をかわすことに精いっぱいで、攻勢に転じることができない。

 やがて、一方の攻撃をかわした隙をついたもう一方の悪魔の拳がハジメの体を捕えた。


「うわっ!」


 なんとか間に剣の腹を挟み込んで、直撃を防ぐが、悪魔の腕力にハジメは体ごと大きく弾き飛ばされた。

 バランスを崩し転倒するハジメに、悪魔が飛び掛かり、拳を叩きつけようしてくる。

 しかし、ハジメの背後から、火球が飛んできて、それを迎え撃った。

 悪魔に触れた途端、火球は爆発を起こし、悪魔を後方へと吹き飛ばす。


「ハジメ!」


 リーシャが駆け寄ってくる。

 肩を借りつつ、なんとかハジメは立ち上がった。

 吹き飛ばされたもののさほどダメ―ジは無かったようで、何事もなかったように悪魔は立ち上がり、もう一体と共に、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 リーシャの肩から手を離し、ハジメは両手で剣を握り直した。

 体を打ち付けた痛みを無理やり意識の外に追いやり、悪魔を睨みつけながら、何かこの状況を打開する方法がないか、頭を回転させる。

 しかし、その時、突如として────横から新たな人影が割り込んできた。

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