第12話 姉妹&ゲーム①
「おお! 美味そう!」
テーブルに並べられた夕食を見て、ハジメは声を漏らした。
白ご飯、ハンバーグ、根菜のスープ、サラダ、ひじき煮。
特別豪華というわけでも無いが、学食やバイト先のまかないで食事を済ませることの多いハジメにとって、きちんと一汁三菜揃った食事というのは久しぶりだった。
手を合わせて、まずハンバーグを一口食べる。
レトルトではない。リーシャがタネから仕込んだハンバーグだ。
ハンバーグだけでなく、その上にかかっているソースもリーシャの手作りである。
「うん、美味い!」
「それはよかった。なにか食べたいものがあったら言ってね」
ハジメの反応に、リーシャは満足そうに笑って言う。
結局、いつ悪魔が出現してもいいよう、リーシャはハジメの部屋で暮らすことになった。
自分の家ということもあり、家事はハジメが全て自分でやるつもりだったのだが、リーシャが『部屋を提供してもらっている以上、家事は全て自分が請け負うのが筋だ』と言い出し口論となり、未だ家事の分担は決まっていない。
しかし、『料理は好きだから、これだけはやらせてほしい』とリーシャが言うので、とりあえず日々の食事の用意に関してはリーシャに任せることになった。
年頃の女の子と一つ屋根の下で暮らすという状況に、ハジメとて何も感じなかったわけではないが、こればっかりはしっかりと気を持つよう自分に言い聞かせるしかない。
「そう言えば、足の具合はどう? 走るのは避けた方がいいって言われてたのに、今日結構走ってたけど」
ふと、ハジメはリーシャに聞いた。
剛の元に駆け付けるためとはいえ、医者に言われたその日の内にリーシャを走らせてしまった。
せっかく治りかけていたのに、また悪化すれば、今後の戦いにも影響が出る。
最も、ハジメが聞いたのは単純にリーシャの体調を心配してのことだったが。
「大丈夫よ。もう完全に治ったから。魔力を持つ私の自己治癒能力をこの世界の人間の常識に当てはめる必要は無いわ」
口に含んだスープを呑み込んでから、リーシャは答えた。
実際それは事実だった。
魔力による肉体活性効果により、既にリーシャの左足はすっかり完治していた。
「へえ。攻撃に使えたり、身体能力を上げてくれたり、やっぱり魔力ってすごいんだなあ」
「そりゃあ、人間である私たちが、悪魔と戦える理由だもの」
どこか得意げにリーシャが答える。
それからは互いに食事を取ることに集中した。
夕食を食べ終え、リーシャの方に視線を移すと、丁度リーシャも食べ終わったところだった。
「ごちそうさま。じゃあ、皿洗いは俺がやるよ」
リーシャの皿を自分の皿に重ねて、流し台に持っていく。
「え? そんな、それくらい私がやるわよ」
「いいからいいから」
言いながら、流し台に皿を置き、スポンジを取る。
流石に皿洗いを始めてしまうと、リーシャもそれ以上は何も言わなかった。
しかし、しばらくして神妙そうな表情で口を開く。
「ねえ、ハジメ......」
「うん?」
「その......この後ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな」
「いいけど、どうかした?」
ハジメの問いに、リーシャはしばし、沈黙する。
しかし、やがて決心したように言葉を継いだ。
「全部話そうと思うの......ハジメに。私のことや悪魔のこと......」
「私がレガリアという別の世界の住人で、悪魔を討伐するために、半年前にこの世界に来たことは、前に話したよね」
「ああ。パンドラボックスとかいう箱の封印が解けて、そこに封じられていた100体の悪魔がこの世界に逃げてきたんだろう?」
リーシャはコクリと頷く。
皿洗いを終えたハジメは居間で、リーシャとテーブルを挟んで向かい合い、話を聞いていた。
「実はね。悪魔を討伐するためにこの世界にやってきたのは私だけじゃないの」
「え? そうなの?」
「私には8人の姉妹がいるんだけど、その内一番上の姉を除く7人と一緒に、私はこの世界にやってきたの。おそらく、もうみんなこの世界の人間と『騎士の契約』を交わしているはず」
「なんだ、そうなのか!」
リーシャの言葉に、ハジメは表情を明るくさせる。
「ああ、よかったぁ! いや、俺もさ、1人で100体の悪魔を相手にするのは正直キツイなぁと思ってたんだよ。でも8人なら一人頭12か13くらいだろう? それくらいなら、なんとかなりそうだ」
「あ......いや、ハジメ。確かに私の姉妹も悪魔を討伐するために、この世界に来たというのは間違いないんだけど......」
嬉しそうに語るハジメに、リーシャは何かを言いかけるが、それより先にハジメが首を傾げた。
「あれ? でもちょっと待ってくれ。それじゃあ、リーシャの1番上の姉さんはどうしてこの世界に来ていないんだ?」
「それは......」
と、答えかけたその時────そう遠くない場所から、嫌な感覚を感じ、リーシャはその方角を振り向いた。
「この感じ......悪魔!」
ハジメも気づいたようで、立ち上がり、険しい表情を同じ方向に向けて呟いた。
「行きましょう。ハジメ!」
「ああ!」
顔を見合わせ、すぐさま2人は部屋を飛び出した。
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