通読し、終盤で訪れるカタルシス。

「死体になれなかった」というのが本作のキモだと思います。それぞれの短編の語り手は様々な境遇から死について触れ、考えるわけですが、登場人物の抱える背景や事情は相当に重く、読んでいくだけでもつらいものが多いです。死というテーマがテーマですから当然とも言えます。ただ、死=救済だとか死を選べばすべてが解決できるとか、そういう短絡的な結論に至るわけではなくて、目の前にある死を選べそうな地点に立っている人間の、ほんの少しのきっかけでどちらにでも傾いてしまいそうな深層心理の葛藤や不安定さを外から中から描いている。安直ではない重さを文章で浴びるような、そんな心地でした。
 死を渇望する人間、生きることを憎む人間、生きることに意味を感じない人間、様々な人間が物語にも現実にもいます。死生観について考えさせられた、というような説話じみたものではなく、ただ、少年少女たちが死に触れたこころ、その繊細さで刺し貫かれたような鋭さを覚えます。個人的には「ミュージック」が好きで、これは短編集として様々な死を見てきたからこそ味わえるカタルシスです。終盤に位置しているのも、今まで見てきたものを別の視点で見るような構図にたまらなく痺れます。

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