恋を叶えるため、彼は女装する
玉鬘蓬(たまかづらよもぎ)の朝は早い。
五時五十分。目が覚める。
しかしすぐには起き上がらない。それこそ、箱を空けると小さい箱があって(ryだったり、濁って濁ってでんぷんがなんたらといった具合に、朝のしらじらしさを全身で噛みしめる。女子的に(あるいは女生徒的に)。
そして六時、アラームが鳴るとともに起床。
伸びをする。大きくはしない。体が心地良く軋む最低限の伸びだ。誰も見ていないところでも女子性を保つのが、女子のたしなみであり女子力の源泉である。
パジャマのまま食卓へ向かい、うつろな瞳で冷蔵庫からヨーグルトとペリエを取り出す。エヴィアンもクリスタルガイザーもゲロルシュタイナーもヴォルヴィックも濁点が非女子的だが、ペリエはかわいらしい。魔法少女にでもなりそうなくらい女子的な名前でよもぎは気に入っている。
ゆっくりと朝食を終えると、スポーツウェアに着替えジョギングに出かける。ランニングではなく、ジョギングだ。走って無駄な筋肉がついて女子性が損なわれることをよもぎはおそれていた。
帰ってすぐ、シャワーを浴びる。食制限と適度の運動の成果かスッと細くなった体に幾つもの水滴がしたたる。くせのないナチュラルなせっけんの香りのボディソープで体を洗い、柑橘の華やかな香りのするシャンプーとコンディショナーで髪を洗うと、風呂場を後にする。
しっかりと体を拭きシャツに袖を通しドライヤーで髪を乾かす。十分に乾かしたのを確認すると横髪を掴んで編み込み始める。
よもぎはこの瞬間がとても好きだった。丁寧に、丁寧に艶やかな亜麻色の髪が編み込まれていく。まるで、一つ編み束が形を表すごとに、自分が女の子に変わっていく気がするからだ。
両サイドの髪を編み込み、後ろで結んでハーフアップにする。
彼、玉鬘蓬は左右の編み込みを確認するように鏡の前で首を振ると、にっこりと愛らしく微笑んだ。
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