ポスト・コロナの十七歳

夏野けい/笹原千波

六月十九日

火曜日。雨。


*憂鬱の線のすべてが雨粒にみえる国語の教科書湿る



良い季節にしかスクーリングはないということになっているけど嘘だ。

まぁわかってる。死ぬ確率が低いってだけ。勉強向きの季節って意味じゃない。


窓際の席は最悪。ちょっと風が吹いただけで濡れる。梅雨入りしてから教科書が一年分くらい老けた。先生の声も聞きづらいし。受験生なのにさ。

明日は晴れるとか、やってらんない。WEBならいっそ雨のほうが集中できる。外の色々が邪魔しない。通学日が雨に当たるのは、やっぱついてないとしか言いようがない。


期末も近いし勉強しなきゃって思うけど、気分上がらないことばっかり。ヤマセンは今日も声がでかい。マスク、鼻出てるし。ちょっと恐怖。おじさんってわりとそういうとこある。父親も昔はプリーツ広げないでサージカルマスクしてた。

今期はうちのクラス体育館で試験らしくてもうそれだけでやる気でない。雨ならまだいいけど、晴れたらジゴク。生き地獄。地獄って書くのメンドウだね。画数。最初にゆううつって書いといてなんだけど。


*体育館占める机と椅子たちは正しき距離で月夜に眠る

*試験官たちの靴音バスケットボールは過去に消えた科目だ



そういやどっかの病院でまた集団発生したとか。意外と近かった。みんなもう騒がない。人間、同じものを長く恐れるのってたぶん、難しい。

私はまだ怖い。誰も終わったなんて言ってないし、実際終わってない。学校が証拠。まだなんにもわかってない。結局ワクチンだってない。薬があれば絶対治るってわけじゃない。傷がついた身体は戻らない。

だけど、あの頃よりは薄くなってしまってて、それも怖い。私も一緒。すぐ忘れる人間。


*人々の記憶は代謝されていく畏れも愛も悲しみも死も

*遺伝子の乗り物として細胞はウイルスたちに便乗される

*悪い夢なんて笑わず語り継ぐことで未来を助けてあげて


*忘れずにいるためできることはなに私の胸に傷はないのに



考えると暗くなるよね。天気のせいってことにしとく。明日は明るく。がんばろう。


*言葉ってなんなの過去を忘れ去るまえに記憶を封入してよ



結局〆も暗いっていう(笑)

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ポスト・コロナの十七歳 夏野けい/笹原千波 @ginkgoBiloba

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