六話

「なぁ、昨夜の話だが」


「あ?何のこったァ?」


「何の事って、夜中のお前の噺」


「あァ、でもそれは気のせいよォっと」


 あくる朝、青年が無明に問いかけるといつものようにのらりくらりと受け流す。本当にこいつはどうにもならない、と青年は一人ため息をついた。


「じゃあ、夜中、私にも幽霊の声が聞こえて、姿も見えた。それは?」


「……そらァ、あたしといたからだろ」


「やっぱりそう言うものなのか」


「もしくは、お前さんが、あれと同類だから」


「……は?」


 唐突な一言に、青年が鼻白む。だが、無明も常の薄笑いを引っ込め、あまり見ることのないまじめな表情。そのまま、二人の間には重い沈黙が流れる。それを破ったのは、扉を叩く音と、ミケの鳴き声。

 一度無明を睨みつけ、青年が扉を開けると、ミケとじゃれる少年と言っても通りそうな和装の青年。彼はぴょこ、と立ち上がると頭を下げる。


「あ、こんにちは。鶴屋涼丸と言います。無明師匠はご在宅ですか?」


「あ、あぁ」


「よォ丸。ちょいと早かねェか?」


「え……五分前ですけれど」


「そうかい。お前さんは隣行っててくれよ。丸に稽古つけてやる約束だ」


「へいへい」


 ふん、と鼻を鳴らして青年は自分の家でもある隣の部屋へ。ぴしゃん、とやや荒く扉が閉められた。

 その後ろ姿を見送り、無明に視線を戻した涼丸は少し困ったような表情になる。


「アニさん、いいんですか?」


「あァ。……そろそろ、潮時だろうしな」


「……」


「お前さんまでそんな顔しなさんな。さて、やるか」


「あ、はい」


 ぽす、と涼丸の頭をなでて部屋へと戻っていく無明。その後を彼はミケを抱きかかえて続いた。

 暫くして、噺を語る幼い声とそれに稽古をつける無明の声が部屋の外へ漏れ聞こえてくる。


 それを隣の部屋で聞きながら、青年はぼんやりと天井を見上げる。

 自分が死んでいるとは思えない、思いたくない。きっと無明が傍にいたからだと思いながら、それをなぜか否定しきれていない自分もいる。

 否定しなければいけない。否定しなければ、自分の存在が危ぶまれるような気がする。ならば。


「確認しないと」

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