墓場の犬

 本日は、お越しいただき誠にありがとうございます。せっかく一人会をやりますので、二席、やらせていただこうと思ってますが、片方は短いですがあたくし自作の怪談をやらせていただけたらなぁと、思っております。

 今回初回ですので、一応自己紹介をさせてください。あたくし、吉珀亭無明(きはくていむめい)と申します。こんななりなので、子供に間違えられることも多いのですが、これでも一応成人しておりますし、去年、お席亭方からの推薦により真打へと昇進させていただきました。

 独り身ですが、家では猫を飼っているんですがね。あたくし、動物とか結構好きでして、たまに近所の野良に餌付けをしてみたりと。……これ、この場限りにしてくださいな。じゃないと、野良に餌付けするんじゃないって怒られてしまいますし、うちの猫が拗ねてしまいますから。拗ねると大変なんですよ。ひっかくし、暫くはそばに寄って来やしなくなってしまう。

 犬と言いますと、墓守をする犬、なんて話を聞いたことがあるんですよ。夜の墓場に行くと、眠りを邪魔するなと、襲ってくるなんてことらしいですが。


ーなぁ、あそこの墓場に出るらしいぜ


ー出るって何がだよ。


ー犬だよ、犬。


ーんなの、野良犬が住みついていたって、おかしくねぇだろうが


ーあれ、聞いたことない?死者の眠りを守るために、墓場には墓守の犬がいる、って。


ー知らねぇよそんな話。お前、どこで聞いたんだ


ーえっと……どこできいたの?


ー俺が聞いてんだよ。


ーあ、思い出した。向こうのカフェーの女の子。そんで、夜に肝試しとかって行くと、食い殺されるんだって。


ーは、どうせ騒がねぇようにってハッタりだろ。


ーじゃあ、一緒に見に行こうよ。俺、一人で行くのは怖くて。


ー仕方ねぇなぁ…。おう、ついでに他の連中にも声かけようぜ


そう言って声をかけて連れだって六人ばかりが、夜の墓場へと向かいます。草木も眠る丑三つ時。墓場へと入り込んでいく若者達。風の音や柳の枝に騒いだりしながら、ぐるっと墓場を一回り。

全員が、変わり果てて見つかったとか。


さて、その誘いを受けていたものの、風邪を引いて断った男がいまして。彼が、そのきもだめしに向かった友人の一人がずっと塞ぎ混んでいると聞きつけ、見舞いににいきます。


-おう、辰公。塞ぎ混んでるって聞いたが、気分はどうだい?


-あぁ、寅……私があの時、逃げ出したから、私だけがのこってしまった…。


ーまぁ、あんまり気を落とすなよ。命あっての物種だ


 そう言って暫く適当なことを話してから、友人の家を辞した男。しかし、その帰り道に、はた、と気づいた。


ー六人で肝試しに行って、四人が死体、二人が発狂した。なら、今俺が見舞いに行った彼奴は……


 いったい誰だ?

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