仲入り
「ごめんください」
「はいよ。坊っちゃんお使いかい?」
ある日の昼下がり。無明の姿は佃にある、佃煮店にあった。声をかければ奥から店主であろう男性が出てきたが、無明をみると子供のお使いと思ったらしい。小柄で童顔、知らない人ならば一度は必ず子供と勘違いする。それをわかってはいるが、一瞬スンッ、と無表情になる。
「いや、あたしは」
「あっ!無明師匠じゃないですか!!」
「おや…。あんた、良く寄席で見かけるねェ。こないだの一人会ン時もいたろ?」
「はい!」
弁明しようとした無明を遮ったのは、かれとあまり年の変わらない青年。そう言えば寄席や一人会で見かけたことがあると、思わず言ってしまえば、彼はそれは嬉しそうに大きく首を振る。
「うるせぇよ…。忠太、知り合いか?」
「俺が一方的にですけれど!吉珀亭無明師匠です!俺、師匠の怪談噺、大好きで!」
「分かったわかった。おちつけ」
なおも興奮ぎみな青年に、店主が言外に落ち着くように促すが落ち着く訳もなく。無明に額を弾かれてやっと黙った。
「えーっと、それで」
「ああ、知り合いにここのが美味しいって聞いたんで、買いに来たんだ」
「そりゃどうも」
「去年の今ごろ、寄席に連れてった奴の実家なんですよ、ここ」
「…そうかい」
「おい、忠太、お前何言って…」
不意に、青年の言葉に店主が凍りつく。
「何って、辰道と行ったんですよ。元気ないから寄席でも行こうって」
「んなわけあるか!あいつは……お前も葬式来ただろうが!」
「え……?」
「あいつは去年の今ごろには死んでるんだぞ!」
店内が凍りつく。
はく、と青年の口が動くが言葉が続かない。
そんな中で、無明だけが薄ら笑いを浮かべていた
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