廃墟となったホテルに肝試しのために若者たちが入り込むところから、物語は始まります。
序盤はちょっとした非日常を楽しむ何気ない自然なやり取りをする姿が描写されるのですが、途中から意外な事実が明らかになります。
そしてさらにそこから物語が思わぬ展開を見せていき……。
淡々としてそれでいて読みやすい描写が読者を物語の中に引き込んでいきます。
俯瞰的な立場で状況を見下ろすかのような一人称は物語の展開を通じて「人間は自分自身のことは客観的に見ることができない」という事実を説得力をもって伝えてきます。
最後までドキリとさせてくれるミステリーホラーです。
ぜひご一読を。
この世とこの世ならざる世界とは
うすい紙を挟んだだけのところで
均衡を保っている。
のではないかと、おもう。
霊感とかないもので。
本作ではその薄紙のあちらとこちらを
自由に行き来しており、
読者のわれわれは、作者のミスリードに
まんまと引っかからないように気をつけていたはずなのに、まんまと引っかかってしまい、まんまと引っかかったことにより快感を得る。
作者さんは書き終えたあとで
あああ、
あの箇所を、いじりたい!
と、思ったことがあるかもしれない。
いじくると均衡は崩れてしまう。
かもしれない。
でも、いじりたい!
でも…
ことほどさように、
均衡のあやうさ、というものは
繊細なテクニックを要します。
これこそが醍醐味ですよね!
コロナに豪雨。被害者になるまで、誰も自分の身に起きるとは思わない。そして、被害に遭うまで、「まさか自分が」という思いを捨てきれない。主人公たちもそんな楽観的な思考で、廃墟と化したホテルに来ていた。目的はもちろん、肝試し。コロナも豪雨も、被害者は運が悪かった。しかし自分たちは運がいい。そう思って、自ら危険とされるホテルに入った。
このホテルには、幽霊が出るらしい。オーナーの幽霊だ。このホテルの一番目のオーナーは、経営難を苦にして首つり自殺していた。そして二番目も、三番目も、自殺していた。怖がる少女。そんな彼女を笑う少女。幽霊を挑発するような発言をする青年たち。
果たして、主人公たちが廃墟で出会ったモノとは?
運を信じた者たちの、末路とは?
最後にはどんでん返しが待ている。
あなたは、自分の運をどこまで信じられますか?
是非、御一読下さい。