自分は何者なのかその2

 Side 真進 ユウト


 ウチの家は周りが塀で囲まれた庭付きの古風な日本屋敷風な外観の家だ。

 まあ庭は畑で基本手作業で野菜を栽培していた。殆どじいちゃんの趣味みたいなもんだ・・・・・・今は俺が全部処理して更地になっているがな。


 その家へ久しぶりに上がり込んで、僕は長い黒髪の美女、四葉 マリと純白のセミロングの可愛らしい女の子、秋篠 モミジを家にあげる。


 そして冷たいお茶を入れた容器に氷を入れた飲み物を置いて、自宅の庭を一望出来る庭に座り込んで色々と僕とマリとモミジで話し込んでいた。


「成る程な・・・・・・事前に知らされていたワケか」


 僕は秋篠 モミジの口から冷たいお茶を含み、庭前の廊下に座って「どうして家の前にいたのか」を聞かされていた。


 四葉 マリもそうだが、どうやら先程まで車で隣の席に座っていた森川 朱美さんと繋がりがあるようで事前に来訪を知らされていたようだ。


「そうだよ――学校も今大変で避難施設になってて自衛隊の人達と一緒にプラカード持ってた変な人達とかマスコミがいて騒がしいの」


「相変わらずだなこの国は――」


 モミジの言う事に俺は毒付く。

 避難施設になってるのとか自衛隊が出入りしているのはともかく、市民団体やマスコミ連中がいるのは僕が学校に居た頃とちっとも変わってない。

  

 また好き勝手に面白おかしく自分の意見主張を述べているのだろう。

 

 明日、唐突に世界が終わるかも知れない今の世界の状況を分かっているのだろうか。


「この国なんてそんな物よ」


 四葉 マリはどこか悲しげに、そして冷徹に言い放った。

 近寄り難い雰囲気が相変わらずだが、どこか疲れているようにも見えた。


「マリちゃん、ずっとユ―君(*モミジがユウトを呼ぶ時の略し方)のことを待っていたみたい。学校でも何時も孤独で――」


「バカ――マリ。そんなこと言わなくてもいいでしょ」


 顔を真っ赤にして何故か否定してくる。

 僕はどう帰せばいいのか悩んだ。


 四葉 マリは軍事産業の会社の娘――社長令嬢でもある。

 本来なら僕が通っていたようなランクの高校に通うべき人間ではないのだが・・・・・・理由は色々とある。


 僕との"婚約者、許嫁"であるとかだ。軍事産業の娘と戦闘用ロボットを密かに作っていた博士の孫――政略結婚として考えた場合ありえない話ではないだろう。

 

 もっとも四葉 マリのお父さんは子供がそのまま大人になったような人だから想像しにくいんだよな。あの人はあの人で密かにロボット作ってもおかしくなさそうだし。


 話を戻して――


 四葉 マリにとって軍事産業の会社の娘と言うのは一種の呪いだ。

 海外ではどうかは知らないが日本ではそうらしい。

 平和の敵扱いされて何度も泣いていたり、涙を堪えていたりしていた。


 ロボットマンで戦いはじめて、そんな四葉 マリと似たような境遇になった僕は何時しか愚痴を言い合う仲になっていたのだ。


 少なくとも学校を去るまではそんな仲だった。


「私とマリは一緒に頑張って家の掃除とかしてたんだよ?」


 あっけらかんと言うモミジに対してマリは「私が言うのもなんだけど本当に通い妻状態ね・・・・・・」などと愚痴を吐いてお茶を飲む。


「大丈夫だったのか? 今この町周辺、物騒だと思うんだけど?」

 

 僕はお礼を言うよりも二人の身を案じて言った。

 マリは「ああその事ね」と言って――


「護衛担当の森川さん、ユー君が中々外出しなくて暇だから手が空いてる時はユー君が親密だった人達の護衛とかにも力を割いてくれているらしいのよ」


「国家権力の力って凄いんだね~」


「ああそう・・・・・・」

 

 色々と理由はあるんだろうが深く考え込まないようにした。

 折角なので今はあまり頭を働かせたくない。


「あなたがいなくなってから大変だったわ・・・・・・」


「あいつらの事だ。どうせ”軍需産業で儲かってるんだろ?”とか色々とイヤミを言ってくるんだろ?」


 マリは「そうよ」と言って、


「あいつら他人を貶すことしか脳がないのかしら・・・・・・ともかく大変だった」


「・・・・・・」


 マリもモミジもとても辛そうな感じだった。


「正直――そんな奴達は全員MEに殺されてろなんて思ったことはあるわ」


「分かるよその気持ち。基地の周りにもMEと和平だの平和交渉だの変な奴達が湧いてな・・・・・・マスコミもまるでロボットとの戦いをショー感覚で報道していて一人でも死人が出れば僕のせいにして――何のために戦ってるのか分かんなくなるよ」


 ああそうだったな。

 学校でも僕達二人こんな物騒な会話してたなと思った。

 

「二人とも仲いいんだね」


 と顔を真っ赤にしてモミジが言う。


「ああ。学校いた時――特にロボットマンに関わってからこんな感じだった」


「そうね。あなたがいなくなってから正直学校に通う意味なくなってきたからこの家にいる時間の方が長いわ」


「・・・・・・遠回しな告白かそれ?」


「かもしれないわね」


「暫く会わない間にどうした?」


 これ二人きりじゃなくてモミジもいるからな?

 モミジは「あわあわ」と顔を真っ赤にして事の成り行きを見守ってくれている。


「明日――世界が滅びるとしたら、どうしたい?」


「・・・・・・それは」


「正直言うと、今の状況は不思議なぐらいよ。いや、真面目に考えると考えたぶんだけワケが分からなくなるわ」


 そう言ってお茶を口に流し込んで一旦話を区切り、意見をこう述べる。


「遠い銀河から態々こんな太陽系の星に巨大ロボットを送り込んで――幾らロボットマンが強くて、世界各国が頑張って今更対抗手段を作ったとしても――敵の文明レベルとか技術レベルとか考えたら普通ならとっくに人類は滅亡してるわよ。てかしてなきゃおかしい」


 そして「少なくともこうしてアナタに愚痴を言う暇もなかったわよね」とお茶を飲み干した。まるでヤケ酒やってるみたいだ。


「それってロボットマンとか想定外だったからじゃ?」


 モミジがおそるおそる意見を述べるが――


「確かにそうだけど、私が敵の親玉だったらロボットマンを倒すために即効で叩き潰すわよ。そもそも巨大ロボットをどっから送り込んでるか分からないけどそれを出来るだけの超技術があるんならもっと効率の良い方法は幾らでもあると思うんだけど」


 などとロボットアニメを全否定するような意見を述べたがあながち彼女の言う事は間違いではない。

 

 モミジも「それもそうか」と納得している。


「まあ、MEのことなんて何一つ分かってないしね。一体なんのために地球を攻撃してるんだか・・・・・・」


(確かにそれは謎だが・・・・・・)


 ふと先日見た”おじいちゃんからのメッセージ”や、MEの前線基地で出会った”黒いロボットのパイロット”の言葉を思い出す。 

  

 MEはお爺ちゃんが元居た星ではマシネリアと呼ばれていた。


 そして今戦っている連中は先遣隊、あるいは斥候レベルの部隊である可能性。


「明日――世界が終わるかも知れないか・・・・・・」


 俺はボソッとつぶやく。

 

 確かにマリの言うとおり、そうなる可能性はゼロじゃない。


 だが――諦めたくない。


 諦めたらこれまで死んでいった人達はなんだったんだ。


 だが同時にこうも思う。

 

 もうロボットマンには乗りたくない。


 戦いたい奴だけ戦えばいい――


「あなたでも泣く時があるのね」 


「え?」

 

 自分の右傍にマリ。


「私はただの幼馴染みだけどね。ユー君が辛いってのは分かるよ。甘えたいなら好きなだけ甘えてもいいよ?」


 そして自分の左傍にモミジがいた。


 両手に花。二人の美女に挟まれて僕は――


「マリ、モミジ!? これ監視されて、見られてるんだぞ!? てか本当にどうした!?」


「言ったでしょ? 明日世界が滅ぶかもしれないんなら少しぐらいはね」

 

 とマリが恥ずかしげに述べる。


「マリちゃんの言う通りだよ。私ね、ずっとユー君と仲良くして、昔みたいに今見たいな事もしたかったの。でもね。私達は何時か大人になるんだよね。それどころか大人になる前に死んじゃうかもしれないんだよね」


 モミジはモミジは嬉しそうにそんなことを言っていた。

 

「ロボットマンとか家の事とか関係なく、もっと早くこうしてれば良かったわね・・・・・・いや、こんな状況だからこそ踏ん切りついたのね」


「そうだねマリちゃん。本当はどっちが恋人になろうか、告白しようか悩んだけどね。色々と話し合って、こう言う愛の形もいいんじゃないかなとか思ったの」


「お前ら誰か見てるのによくそんな話出来るな・・・・・・」


 呆れて物が言えん。

 二人はもっと常識的な人間だと思ったんだが。

 

「だけど世界の終わりを乗り越えるまでだからね? もしも、世界の終わりを乗り越えたら――改めて選んでもらうから」


「えへへそう言うことだよ~ユー君」


 僕はハァと溜息がついた。

 

「もっと近くに寄ってあげよっか? 森川さんの話だと大分ためこんでみたいだし」


「うん。そうだね。もっと・・・・・・その・・・・・・私もマリちゃんも寂しかったし、私もユー君に甘えたいな」


 僕は「逆に疲れるんだけど」と返すが涙が出てきた。


「そのわりには嬉しそうね」


「あははは、みな泣いておかしいね」


 などと何故か何だかバカみたいに僕達は泣いた。



 MEが来たのはその直後だった。


「良い雰囲気のところ邪魔してごめんなさい! MEよ!」


 と、何処かで森川さんが駆け込んで来る。


 僕は「行ってくる」とだけ答えた。


 マリとモミジは「いってらっしゃい」、「頑張ってね、ユー君」と涙を拭きながら快く送り出してくれた。


 町中もサイレンで騒がしい。


 何のために戦うなど答えはハッキリと出ていない。


 いわゆる中途半端な気持ちと言う奴だろう。

 

 だけど、本音を言うのなら世界中の誰かよりも、親しい人達のために戦いたい。


 それが僕の本心なんだと思う。


 ヒーローとして失格だろうがそう考えると心が楽になったような気がした。 


 END

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