地球圏決戦

 Side グローニン


 ギアロスの地球攻略司令官として抜擢された。


 文明レベルから見て多少の損耗はするだろうがそんなに時間は掛からずに地球を攻め落とせると思った。


 だが最初の攻撃時に奴の出現――ロボットマンが現れてからケチの突きっぱなしだった。

 

 どう見ても地球の文明レベルを超えた戦闘力を持つロボット。


 何かしらの異星人の技術で作られたに違いない。


 威力偵察や消耗戦を仕掛け、時には特注のロボットを嗾けたり、地上に前線拠点を作ったこともあった。


 だが連敗に継ぐ連敗。


 遠く離れた上司にも呆れられる始末。


 現在の状況は最悪だ。


 気にくわないエリート街道まっしぐらなバルジアが現れたが早々に退場。


 基地の戦力もバルジアの采配であらかた吐き出したがほぼ全滅した。


 ロボットマンの戦闘力が想定外だったのもあるが、謎の異星人――データーを照合するに惑星テスラの母船を中心とした想定外の戦力のせいでもある。


 奴達が地球人と手を組んでここに攻め込んでくるのも時間の問題だろう。


 本来なら救援を要請しなければならないが母星の連中も態々こんな辺境の惑星に増援を送り込む程ヒマではなかろう。


 急ピッチで戦闘用ロボットを増産しているが奴達の戦闘力を考えれば心許ない。


 残された選択肢は多くない。


 早めに決断しなければならない。



 Side 真進 ユウト


 おじいちゃんと再開できたあの戦いから翌日。


 更なる急展開を迎えた。


 月からギアロスの基地、一種の移動要塞だったらしい――がこちらに向かって来た。


 かなりデカイ。


 全長一キロメートル以上はある。

 基地と言うよりSF映画に出てくる巨大戦艦だ。

 多数の砲塔も確認できる。


 先日現れた――周りに居る戦艦型がただの小型の船舶に見える程だ。


 鉄騎隊は文字通り出動不能。

 先日よりもダメージは軽微だが、宇宙空間での出動処理は間に合わないらしい。

 そう言う訓練も受けていない。

 

 おじいちゃんとホークさんと一緒に付いてきた外宇宙の仲間達と一緒に付いて来た。


 恐らく敵も勝負に出たのだろう。


 船足は早く、後一時間もすれば出撃だ。


 ロボットマンの格納庫で待機している。


「最後の最後でこんな役目を押しつけてすまないな」


「大文字さん・・・・・・」


 大の大人が悲しそうな顔で頭を下げる。

 どれだけ悔しい想いをしているのだろうか。

 戦う力がある自分には想像だに出来なかった。


「俺に出来ることはあるか?」


「僕の帰るところを、守ってくれますか?」


「――分かった」


 ただそれだけの簡潔なやり取りだった。

 そして入れ替わりに――護衛の森川さんに連れられ、四葉 マリと秋篠 モミジの二人が現れた。


 急いで来たのだろう。

 ゼイゼイと二人とも息を切らしている。


「行くのね?」

 

 マリが悲しそうに言う。

 僕は「うん」と答えた。


「本当は言って欲しくないし、私も出来るなら一緒に戦いたいけど――」


「モミジ、気持ちは嬉しいけど」


「分かってるだから――」


 そしてマリが自分のホッペにキスをして。

 続けざまに反対側にモミジが自分の頬にキスをした。


 大文字さんや森川さんは衝撃的な展開に固まった。

 俺も一瞬何が何だか分からず固まってしまう。


「まだ答えは聞いてないんだからね」と恥ずかしげにマリがいい。


「約束だよ? ちゃんと帰ってきてね?」と言いつつ、テヘヘと顔を真っ赤にしながらモミジが言う。


 ――ああ、これはちゃんと帰らなきゃな。


 僕はそう決意した。



 宇宙空間に上がると同時に敵の機動要塞の弾幕の嵐が降り注ぐ。

 ロボット軍団は上下左右に別れて展開。

 機動要塞を援護する形だ。


 お爺ちゃんが乗ってきた純白の船はシールドを張って各種武装で他のロボット達と一緒に応戦しているがそれでも焼け石に水だ。


 敵の機動要塞の接近は止まらない。

 ギアロスは究極のエコロジスト集団であり、目標達成のために――人類がいない動植物だけの理想郷を作るため、世界中の大都市に攻撃が降り注ぐのも時間の問題だろう。

 

『聞こえるか?』


「ホークさん――」


『これから博士がワープゲートを作り出す。そこから飛び込んで一気にカタをつけるぞ』


「そんな方法が――可能なんだろうな。宇宙船なんだし」


 ワープ航法が出来る船だからこそ宇宙中を旅できたのだ。


『時間がない。後数分もすれば地球の大都市が全て焼け野原になるぞ』


「選択肢はないか」


 そうしてその決断に乗ることにした。


☆ 

 

 ワープゲートは敵の後方に開かれた。

 不思議な感覚だった。

 

 ワープゲートを抜けると大量の敵と鉢合わせするがホークは『雑魚を無視して要塞内部に突入するぞ!!』と指示を飛ばす。


 同時に敵が四方八方からやって来る。

 

『私達がいるのも忘れないでね』


『そう言うことだ!!』


『全機散開。死ぬなよ』


 ワープゲートからやって来たおじいちゃんと一緒にやって来たロボット達も応戦。


 次々と戦闘ロボットを蹴散らしていくが――


『あの要塞、味方もろとも攻撃してくるぞ!?』


『要塞に飛び込む事を考えろ!』


 だが敵の要塞は味方のロボット諸とも此方を葬り去る算段のようで被害が出る。

 僕は開き直って、バリアを前方に集中展開しながらロボット達を蹴散らして飛び込んだ。


 

 要塞内部に潜入。

 目に付く物を片っ端から破壊する。

 敵が倒しても倒しても次々と湧いてくる。


 だがそれでも立ち止まるワケにはいかなかった。


 とにかく前に、一歩でも前進する。


 ホークさんも黒いロボットで的確に敵を撃破して進路を切り開いてくれる。


「広い空間に出た?」


『製造工場の中心地のようだな――おっと!?』


 50m級のロボットに乗っても広いと感じる広大な空間には様々な機械にコンベア、組み立て途中のロボットがずらりと並んでいた。

 ホークさんの言うとおり製造工場なのだろう。


「あれは!?」


 そして天井に巨大なクモのような戦闘マシンがいた。

 全長は100mぐらいはあるだろうか。

 要塞内部にも構わず次々と各部からビーム砲を乱射する。


『ここは任せろ!! お前は先に進め!!』


「分かった!!」


 僕はこの場をホークさんに任せてその場を後にした。



『その場をまっすぐ進むのじゃ。時間は残り少ないぞ』


「ありがとうおじいちゃん」


 僕は立ち塞がる敵を撃破し、重要そうな設備を破壊しながら動力炉に向かっていた。


 そしておじいちゃんのナビゲートもあってどうにか動力炉に辿り着けた。

 

『想像以上の早さだな――地球人』


「お前は――」

 

 動力炉に辿り着いた。

 

 動力炉はロボットの製造上とは違って狭いがそれでも想像以上にゆとりある空間だ。ロボットに点検、整備させるためにそう言う風になったのかもしれない。


 動力炉と思わしき物体は地面と天井から生える大きなピラミッド状の構造物に挟まれる大きな銀色の球体のような物だった。


 それよりも眼前にいた――黒い喋るロボット。

 赤いマントをつけた騎士甲冑をつけた赤い双眼のロボット。

 手には光の剣と盾を持っている。

 昨日戦ったギアロスのバルジアを思い出させる。

 こいつがこの要塞の指揮官だろうか。


『私はギアロスの地球攻略司令官、グローニン――君達地球人の宿敵と言えば分かるかな』


「悪いが長話している暇は無いんでね。このまま倒させてもらうぞ」


『そうだな』


 それが開始の合図だった。

 相手の剣戟を躱し、カウンターで目からレーザーを放つが盾で防がれる。


『本当は母星に逃げ帰る事も考えたのだがな――』


「そうしてくれりゃありがたかったんだけどな」


 そう言って僕は胸のカノン砲を動力炉に向ける。

 相手は此方の意図が分かったのかシールドを構えて割って入り防いだ。


『大層な肩書きを名乗ってはいるが、地球人風に言えばただの中間管理職で、それで連戦連敗の無能ロボットと言う肩書き付きだ』


「同情しろとでも?」


 愚痴に無理矢理付き合う形になってるが僕は攻撃の手を緩めない。

 だが相手は盾で防ぎながら無理矢理距離を詰めてくる。


『そこまで落ちぶれているつもりはないさ』


「なら何で言い聞かせてくるんだ? 時間稼ぎか?」


 剣を振り下ろすがバリアを張って腕でガードする。

 そして相手の胴体に向けて左のロケットパンチを放った。

 放たれたパンチは貫通せず、勢いよく弾かれたがその隙にVRを用いた高速移動を併用した分身戦法を行う。

 

『狙いは分かっているぞ!』


「ちっ!!」


 剣を頭上に掲げ、電撃が全方位に放たれる。

 流石にこれは対処できず、ダメージを受けてしまう。 


「バルギアより強いんじゃないのかお前? なんでさっさと前線に出てこなかった?」


 ロボットマンに乗り立ての頃にそうすれば負ける可能性は十分にあると感じる程の強さだ。


『楽な仕事だと思っていたからな。正直ここまで追い詰められるとは思いもしてなかった。それにたかが野蛮な辺境惑星如きに本気を出したいと思わなかった』


「本気出すのが遅すぎたな」


 まあそれで助けられたのだが。

 それにこいつらに数え切れない人間が殺されている。

 同情する余地はない。


『ユウト!! 早く動力炉を破壊して脱出するんじゃ!!』


「そうしたいんだけど想像以上に手強くてな――」

 

 どうするかと思案し――そして――


『援軍!?』


 黒いロボット――ホークさんだ。

 左腕がなくなり、各所が破損しているが右腕の銃で敵に応戦する。


『今だ!! やれ!!』


「分かった!!」


『させるか!!』


 そして攻撃が動力炉に直撃した。


  

 俺は左腕を失い、体の各所を破損させながらも彼方此方が爆発している要塞の外に出た。


 敵のロボットの数も残り少ない。

 ホークさんもどうにか無事らしい。

 

 現在動力炉は暴走を始め、この機動要塞は爆発寸前の状態になっているようだ。

 言い方を変えれば巨大な爆弾状態だ。


 眼前にはグローニンがいる。

 彼方も剣を失い、盾だけ、マントはボロボロ、体の各所から火花が散っている。


「しつこい奴だ」


『勝ったと思うなよ。この要塞で焼き払えないならこの要塞を巨大な爆弾に変えればいい』


「まさか――」


 ふと嫌な考えがよぎる。

 急いでおじいちゃんに通信をする。


「おじいちゃん。この機動要塞の進行ルートと現在の速度は!?」


『現在速度が上がっておる!! 降下地点の予測範囲はロボットマンの基地周辺じゃ!! どの道このままだと地球に致命的なダメージを負うぞ!!』


「大量破壊兵器の類いは使えないんじゃなかったのか!? 話が違うぞ!?」

 

 グローニンは高笑いをあげる。


『確かに地球に大ダメージは負うだろう全ての地域がそうなるワケではない。何れくる後続の部隊が自然環境を回復させてくれるだろう』


「狂ったのか!?」


『私は正常だ。なあに。不幸な事故の範疇で収まる』


「命令の拡大解釈・・・・・・いや、指令の抜け道をついた作戦案・・・・・・本当にロボットか?」


 命令からは逃れられない一種の喋るAIかと思った。

 だがこのグローニンと言い、先に倒したバルジアといい、とても人間くさい。

 特にグローニンはその傾向が顕著だ。

 

(考えても仕方ないか)


 今はこの状況をどうにかしなくては―― 


『動力炉を含めて出来るかぎり破壊するしか無い!! それしか方法が無いぞ!!』 


 おじいちゃんの言う方法しかないだろう。

 僕はグローニンを無視した。


『キサマ――逃げるか!?』


「自分のプライドよりも世界の命運が大事なんでな」


 エネルギーを全て放出するつもりで――ブレストカノン、アイレーザーをフルパワーで動力炉周辺に放つ。


『うぉおおおおおおおおおおおおお!!』


 グローニンは迫り来るが――


「じゃあな」


 ブレストカノン、アイレーザーをストップ。

 右腕のロケットパンチを放つ。

 それを易々と回避するが――


『なに!?』


 シールドを前面に張って体当たりをして要塞に叩き付けた。

 それで十分だった。

 そのまま僕は離脱。 

 

 少し遅れて――機動要塞は内側から破裂するように大爆発。


 グローニンは爆発に巻き込まれたと思うがどうなったかは分からない。


 後で知ったことだが吹き飛んだ機動要塞の破片は地球にいる人達からは流星群のように見えたと言う。

 

「終わったのか・・・・・・」


 喜びよりも何故だか寂しさのような物を感じた。

 

 なんだかんだでロボットマンでの戦いを楽しんでいたのか、もしくは戦いが終わることへの戸惑いだったのだろうか。

 

(まあこんなもんだよな)


 以前、大文字さんに基地に語った通り僕は"自分本位の屑"だ。

 心に悪魔を飼っていると言っていい。


 そんな直ぐには治らないよな――と悲しさを感じて――ふと二人の顔、四葉 マリと秋篠 モミジの二人の顔を思い浮かんだ。


 そこまで考えると僕はおじいちゃんに連絡を入れて二人のもとに変えることにした。


 基地の格納庫に戻ると大人数の人々に鼓膜がどうにかなりそうな程の大歓声で出迎えられ、そして四葉 マリと秋篠 モミジに抱きつかれた――


 地球の命運懸けた戦いはこうして終わりを迎えた。


 END

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