おじいちゃん

 Side 真進 ユウト


 夜が更けた。


 基地周辺では急ピッチで復旧作業が行われている。


 本当は家でゆっくりとしたいが状況が状況だ。


 基地内のブリーフィングルームで重要な役職の人間が集まり、おじいちゃんは壇上に上がって色々と説明していた。


 そこで黒衣の仮面の人物――ホーク。

 背丈や体格からして自分と同い年ぐらいの男に見える――もいた。


 藤堂司令が「色々と聞きたい事はあるが、まずMEの正体について教えてもらいたい」と代表して尋ねた。


「うむ。ワシが異星人――テスラ人である事はもうご存じじゃろう。ワシらも、そして惑星テスラの人間も奴の正体については分からん事が多くてな。恐らく知ってることについては皆と同じぐらいじゃ」


「知的生命体の抹殺・・・・・・本気でやろうとしてるんですか?」


 今度はオペレーターの前川さんが尋ねた。


「ああ本気じゃ。ただし知的生命体だけの抹殺なので核兵器のような大量破壊兵器は使えないんじゃあいつらは」


「どう言う事ですか?」


 藤堂司令がもっともな疑問を投げかける。


「ワシが行方を眩ませたのは様々な理由があるが、他の星で―ギアロスについての情報を統合した結果じゃ」


「他の星――つまり宇宙中を駆け回っていたんですか!?」


 その事実に驚愕する藤堂司令。


 おじいちゃんは「まあ今はその話はええじゃろ」と言って、


「奴達は一見無慈悲な侵略者であると同時に、エコロジストでもあるんじゃ。極端な話、知的生命体は殺せるが犬や猫などの動物は率先的に殺せないんじゃよ」


「つまり地球環境を汚す私達人間は死んで当然だと?」


 前川さんがそう答えを出し、


「だから知的生命体を殺すのか!?」


 大文字さんが声を荒らげて言った。


「それが奴達の行動倫理じゃ。そしてギアロスに侵略された星――惑星テスラを見た私の分析じゃった。知的生命体がいない自然の楽園。争いを産み出す知的生命体を排除するのも本心のようじゃがの。もしかするとギアロス内に派閥があったりするかもしれんが奴達の行動方針は概ねそうじゃった」


「何だか報告するのが恐くなってきたわ・・・・・・」


 前川さんの気持ちも分かる。

 敵の正体が宇宙規模の超過激なエコロジスト集団であるなど世界各国の人間が知ったらどう思うだろうか。

 僕は絶対同調する連中が出てくるだろうなと思った。


「他に質問はあるかね?」


「どうして行方を眩ましたんですか? ギアロスの正体を探るにしては――」


 藤堂司令が尋ねるが――


「言わんでも想像はつくじゃろ? 通信で聞いていたと思うが、老害と言われようともテスラ星の二の舞にはしたくなかったんじゃ。それに科学者時代から何度も身の危険を感じていた――」


 そう聞いて藤堂司令は「申し訳ありません。配慮が足りませんでした」と頭を下げる。


「ええんじゃ。それもまた人間なのじゃろうしテスラ星の人間からすればどうこう言える資格はないからな」と、こちらも申し訳なさそうな表情をしていた。



 そうして様々な質問や今後の段取りが決まり、ブリーフィングルームには僕とおじいちゃんが残された。


「メッセージは見たのか?」


「ああ・・・・・・僕の本音は聞いたと思うけど、それでもおじいちゃんはおじいちゃんだよ」


「そうか・・・・・・その言葉だけでも嬉しいわい」


「それで、月の基地を破壊した後はまた宇宙に旅を?」


「それも考えておる。ギアロスはもはや地球だけの問題じゃない。様々な惑星の問題でもあるのじゃ」


「それを言われたら止められないね。言っておいでお爺ちゃん。体を悪くしないでね」


「・・・・・・」


「どうしたの?」


 お爺ちゃんは眉間に皺を寄せて考え込む素振りをしていたのでおそるおそる尋ねる。


「罵声の嵐とかそう言うのを覚悟していたんじゃが・・・・・・昔から何というか幸か不幸か、歳不相応に大人びておるのう」


「ありがとうと言っておくよ」


「そうか――他に聞きたい事はあるか」


「両親のこと」


「・・・・・・正直話せる事は少ないが、辛い話になるぞ?」


 そう言われて僕は覚悟した。



 惑星テスラはバカみたいに戦争をしていた。

 

 ギアロスが来ても続ける程の愚かさじゃった。

 

 両親は軍人でな――どう言う経緯かは分からんが敵対者同士だったのじゃよ。

 

 

 戦争を終わらせるために活動をしていてそんな活動に年甲斐も無く胸を打たれたワシは二人に手を貸し、様々な研究開発を行った。

 

 それに嫁に先立たれて、息子夫婦や孫も戦争で亡くしていたからの。  


 もう戦争にはこりごりじゃった。

 

 活動は順調だったが、そんな時にギアロスが現れた。


 そしてギアロスに対抗するためにロボットマンに乗って率先して戦ったのがお主の父親じゃ。


 じゃが亡くなった。


 ギアロスではなく、テスラ人の内輪揉めでな。

 

 お主の母親も、ワシも悲しみにくれたわい・・・・・・


 そしてテスラ人が一致団結した時にはもう遅かった。

 

 星の脱出を支援する際、お主の母親はテスラのためじゃなく、お主の未来を守るために死んだよ。


 ワシにユウトを預けてな―― 



「正直に言うと惑星テスラは滅びるべくして滅びたと思っておるよ――」


「そうか・・・・・・まさか父親が内輪揉めでな・・・・・・」


 短い昔話ではあるが、おじいちゃんも壮絶な過去を背負っていた。


 それよりも父親と母親が死んで――特に父親が内輪揉めで死んだのは顔も知らないとは言え、ショックだった。


「もしも――もしも僕が、地球人の内輪揉めで死んだらどうしていた?」


「その時になってみないと分からんが、人類に絶望して何かしらの大虐殺はしていたか、後悔するかの自殺するかの二択じゃろうな――」


 その言葉に嬉しくもあり、悲しくもあった。


「正直僕に地球の守りを任せていたのは色々と言いたい事はあるけど、ある意味では正解だったかもしれないしね――堅苦しい話はしまいにしてもっと別の話をしよう」 


 そう言って僕は気分転換に話を変えることにした。

 おじいちゃんは「なんじゃ?」と首を傾げる。


「秋篠 モミジさんと四葉 マリさんにアタック掛けられている」


 それを聞いておじいちゃんはポカーンとしたが、内容を理解したのか笑い出した。


「そうかそうか! 時間の流れは早いのう! ここ最近で一番めでたい話じゃ!」


「だろ? んでどっちを選ぶか――答えを出さないといけない」


「宇宙に出れば一夫多妻は珍しくないんじゃが、まあそこは地球暮らしの宿命として割り切るしかないのう。それでどっちを選ぶか悩んでおるのじゃろう?」


 おじいちゃんはお見通しのようじゃった。

 

「そうなんだよ。どっちもちょっと見ない間に凄く魅力的な女の子になってたからな・・・・・・そんな二人に迫られてロボットマンに乗って戦って一番良かったことだよ」


「ふふふ。そうかそうか。ユウトの子供を生きているウチに見られそうじゃな」


「いや、分かんないよ。お爺ちゃん今の二人見てないから分かんないと思うけど」


「ははは、ギアロスには勝てても年頃のおなごには勝てんか!」


「大声で言う事じゃないでしょ! ・・・・・・まあその通りだから言い返せないけど――」


「これは良い報告が聞けたわい。ワシも頑張らねばな。御主も将来のために頑張れよ」


「そのためにも人類の未来、切り開かないとね」


 そう言って俺とお爺ちゃんは別れた。


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