幕間
雲一つない空の下、銀杏の葉が風に擦れ、はらはらと舞い散る。玉姫神社の境内で双子の兄妹が落ち葉を拾っている。
妹は熱心に葉を一つ一つ選び、兄はバサバサとビニール袋に入れていく。
妹は境内の裏に周ると、注連縄のかかった御神木の銀杏の木にもたれかかって眠る少年を見つける。少年の手元にはノートとペンが置かれていた。妹は気になって、ノートをそっと引き寄せる。
ノートを読むと、小説だとすぐにわかった。紡がれる文章の美しさにいつの間にか夢中になっていた。
「おーい。何してんだ?」
遠くから兄が呼びかけ、駆け寄って来る。
「しーっ! 起きちゃうでしょ」
眠る少年に気付く兄。
「誰だ。こいつ?」
「だから、しーってば! お兄ちゃん、もっと小さい声で喋ってよ」
妹が持っているノートを兄がひったくる。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
兄もノートから目が離せなくなっていた。
ノートを閉じると、表紙に”神条冬野”とあった。起こさない様にノートをそっと、少年の横に置くと妹の手を引っ張り歩き出す。
「お兄ちゃん、痛いよ」
兄は鼻をすすり、袖で目元を拭う。
「お兄ちゃん、もしかして泣いているの?」
「いいから、帰るぞ!」
鳥居の先に買い物袋を両手に持った女性が立っていた。
「あっ、母さんだ!」
兄妹は母親に駆け寄る。
「今日は、和泉と桜の十歳の誕生日だからね。今日は母さん張り切っちゃうぞ!」
鳥居を背に三人の姿が遠ざかる。
兄妹は神条冬野という名前を心に刻んだ。
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