宝玉林檎

プロローグ

 渋谷の街頭スクリーンに本の宣伝が流れた。

 街行く半数の人が足を止め、画面に見入る。スマートフォンを取り出し動画撮影を始める若者もいた。

 『十七歳の鬼才 柊流ひいらぎながれ

  デビュー作 「雪時雨」

  全国の書店にて絶賛発売中!』

 二月二十九日、一人の作家が誕生した。


 琴桐桜こときりさくらは渋谷駅からスクランブル交差点を渡ってすぐの蔓屋書店に入って行く。迷わず『雪時雨』が積まれている棚へと向かい本を手にする。

 街頭スクリーンの宣伝効果もあり、興味を持った人々が押し寄せ、数ページ立ち読みした全ての人が、レジカウンターへと向かった。

 棚に平積みされていた『雪時雨』は完売となり、棚には『当店は完売致しました。次回の入荷は未定です。誠に申し訳ありません』という張り紙が出された。

 桜は会計を済ませ店を出ると、雪交じりの雨が降り出していた。本の入った紙袋を濡れない様に抱え、小走りで駅へと向かった。

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