それは、説明が必要不可欠
ミーユに手を引かれ通路を歩いて行く。
今も、警報は鳴り響いたままだ。
脱走者がでた事を告げる警報・・・・・・そして、俺はその警報のきっかけである二人に連れられている・・・。
どうしていいのか分からない・・・。
目の前で、昨日まで一緒に冗談を言い合っていた同期を、仲間を殺されて・・・そしてそれを実行した本人達が、俺の前を歩いている・・・。
監視員として・・・いや、「人間」として、二人を止めなくてはいけないのではないか・・・。
・・・・・・無理だ。
見せつけられたじゃないか・・・あんなにも一方的な殺戮を・・・。
訓練を受けた屈強な部隊員ですら悲鳴を上げ、ただ殺されるのを待つかの様に顔を恐怖に歪めていたと言うのに・・・・・・少しばかり訓練を受けただけの監視員である俺に何ができる・・・。
弾丸を物ともしないクシィを止められるか?
鉄の防壁を簡単に粉砕するミーユを引っ張れるか?
・・・・・・考えなくても判りきっている・・・。
俺は今、人質だ・・・。
今、捕らわれているのはミーユ達じゃない・・・俺だ。
「誓、心配しないで。」
手を引きながら前を歩くミーユが顔を向けずにそう言ってきた。
「誓の事は、絶対に傷つけないから。誓だけは、傷つけないから。」
「・・・・・・。」
ギュッと、握られているミーユの手に力が加わった・・・。
握り返せば、簡単に俺の手の中に納まりそうなほど小さな手。
この小さな手のどこに、「人間」の体に簡単に風穴を開けられる力があるというのだろうか・・・。
・・・・・・「人外」だから、と言ってしまっていいのか・・・。
「さっ、ここから出るぜ。」
俺とミーユの更に前を歩くクシィが、俺を見ながら言った。
通路の先には基地の出入り口。
この基地内にあるただ一つの出入りができる扉。
その扉の前で立ち止まった・・・。
「ミーユ、開けてくれ。」
「分かった。」
クシィに開けるよう言われたミーユは、簡単に返事を返すと、暗証番号と指紋認証が無ければ開けられない扉を、小さな拳の一振りで粉々に吹き飛ばした。
「さっ、行こうぜ誓。」
二人に引かれ、見るも無残になった出入り口を跨いで、数か月ぶりに基地の外へと足を出す。
都市からは離れた位置にあるこの基地。
周りは木々に覆われた森であったが、基地を建てる時に薙ぎ倒したと聞く。
基地の奥には、まだ少しだけ緑の残った場所が見える。
そして、基地を出た俺の目の前には・・・・・・何人もの「人間」が倒れていた・・・。
「これ・・・は、一体・・・!!?」
倒れているのは、見張りや基地に周りを巡回をしているはずの者だった・・・。
血を流している者もいれば、体の部位が無い物もいる・・・。
一体・・・何が・・・。
唖然としている俺の耳に、悲鳴が聞こえた。
まだ、生き残っている人がいる・・・・・・そう思い、声の方へ顔を向ける・・・。
「っっな!!?あれは・・・!?」
目に飛び込んできたのは、たった一人の「人間」を、十数人以上の「人外」がなぶり殺しにしている光景だった・・・・・・。
もがれ、刺され、切られ、潰され、貫かれ・・・・・・目にした数十秒後には、「それ」はもう「人間」では無くなっていた・・・。
「あれは・・・あの「人外」達は・・・・・・」
ここは基地だ・・・・・・「人外」を害だと嫌い、住処をも攻めようとしていた「人間」の居る基地だ・・・。
なのに、それなのに、何でこんな所にあんな数の「人外」が・・・・・・。
「あっ。」
「!!?」
一人の「人外」が、俺に気づいた。
それに続いて、他の「人外」も俺に気づく。
「人間」の形を無くした「それ」を踏み越えて、こっちに近づいてくる。
・・・・・・殺される。
ミーユは俺を傷つけないと言った。
けど、彼女達は俺を知らない・・・。
彼女達からすれば、俺も・・・クシィの言っていた、「排除」する対象になるんじゃ・・・。
数歩後退る俺の頭上から、聞きなれた、声がした・・・。
「大丈夫ですよ、誓さん。私達は貴方の事を絶対に傷つけません。」
「・・・・・・フィ、ア・・・」
肩から生えた大きな翼を羽ばたかせながら、フィアが、俺の前に舞い降りて来た・・・。
何故、そんなに翼が大きくなっているのか・・・そんな疑問も、今では考えられる程の思考を持っていない・・・。
「フィア、それ、私がさっき誓に言った。」
「えっ、そうなの?」
「それより早く行こうぜ!ここに居るのももう飽きた!」
俺を取り囲み、何事も無かったかの様にお喋りをしている三人。
鉄格子の向こうに居た時と、変わらない様な雰囲気で・・・・・・。
「っつ!?」
急な立ち眩みが俺を襲う。
立っていられなくなり、その場に座り込む。
そんな俺を見て、三人が心配した表情で俺を見る。
他に居た「人外」達も、俺を見ている。
「どうした誓!?大丈夫か!?」
「まさか、何処か怪我でも!?」
心配してくる皆を他所に、俺には聞きたい事が山ほどあった・・・。
「・・・教えてくれ・・・一体どういうことなのかを・・・全部!!」
付いて来れば教えてやると言われたが、脳がとっくにキャパオーバーだ・・・。
頭が酷く痛んできた・・・。
「・・・ごめんなさい、全部を話すと長くなるので部分的に・・・・・・私達は、誓さんを連れてくるように言われて来たんです。」
「おいフィア、話は後でも良いだろ?」
「少しだけよ。」
「言われたって・・・・・・誰に・・・」
「・・・・・・私達「人外」の、「女王」にですよ。」
フィアは、未だに状況が分からない俺に、説明し始めた・・・。
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