それは、・・・・・・。

あともう少し・・・ほんの少しだけ進めばトンネルを抜けて、出て行けるというのに・・・・・・俺は、何故こうも運が悪いんだろう・・・。


「ミーユ・・・クシィ・・・」


出口の前に立ちはだかる二人。

俺がここから逃げ出そうとしているのが、分かっているといった様な目で、俺を捕らえていた。

嘘や言い訳は効かない・・・・・・なら、


「全部、聞いたんだ・・・「真実」を・・・。もう、ここには居たくない・・・。」


胸の内をさらけ出す。

二人は何も言ってこない・・・と、後ろから複数の足音が聞こえて来た。

こんな事をしている間に、追っ手が迫ってきている様だった・・・。

前には二人、後ろには追って・・・どうすればいい・・・。

焦りが大きくなっていく・・・その時。


「・・・・・・ミーユ。」


俺の行く道を立ち塞いでいたミーユが、そっと端に退いた。

ミーユと目が合うと、ニコッと微笑んで、小さく頷いた。

「行って」・・・・・・と、そう言ってくれている様に思えた。

俺は迷わず開けた道を前に駆けた。

心の中で、ミーユに感謝しながら・・・・・・。

最後の最後に、ミーユは俺の味方でいてくれた・・・クシィは、納得できないといった顔だったが、止めはしないだろう・・・。

そうして、二人の間を通り過ぎる・・・・・・、


「・・・っ!!??あっ!!?」


瞬間、ミーユが俺の胴体に抱き着いてきた。

ギリギリと、力が加えられていく・・・。

胴体が、切り離されそうだ・・・・・・。


「ぐっ・・・はぁっ!!ミーユ・・・!!?・・・なん、で・・・!!」

「誓は優しい。こんなに簡単に「人外」を信じてくれるなんて。」


絞められていた力が弱まる。

途端に立っていられなくなり、その場に倒れる。

足が痺れて、動けない・・・。


「だからこそ、手放したくない。」


倒れた俺に圧し掛かるミーユ。


「納得できねぇなぁ・・・その騙し討ちみたいなやり方。」

「結果オーライ。」


俺を下に会話をする二人。

・・・・・・騙された。

時すでに遅く・・・後を追っていた「人外」達もやって来て、俺はそのまま捕らえられてしまった・・・・・・。

両側から腕を組まれ、逃げられない様にされる。

まだ足に力が入らない・・・、引きずられ気味に歩かされる・・・。


「よし!じゃあ戻るか!」

「うん。」


二人を先頭に、俺はさっきの場所まで連れ戻された・・・・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


周りには先ほどよりも遥かに多い「人外」の数。

俺を取り囲むようにして立っている。

逃げ道は完全に塞がれた・・・。

もう、逃げられない・・・。

一度きりのチャンスは・・・・・・騙された事で塵と消えた・・・。


「ダメだよ誓。折角また再会できたのに逃げるなんて。」


取り押さえられている俺を、ルアーフが見下ろしている。

気のせいでは無いと思う・・・ルアーフが怒っている様に見えるのは・・・。


「お願いだから帰してくれ!!ここでの事は誰にも言わない、約束する!!」


縋るように吐き出す言葉。

それを聞いて、ルアーフが笑顔を向ける。


「ダメ。誓はこれから一生、私達と生きていくの。私達には誓しかいないんだから、誓にも私達だけになってもらわないと困るの。」


隣に立っていたフィアから何かを受け取ったルアーフ・・・。

その手には、注射器の様な物が握られていた・・・。


「な、何を・・・!!?」

「これはね、ある「人外」の「能力」から得た物なの。」


俺の目前に注射器を見せびらかすルアーフ・・・。

そして、俺の腕に針をあてがう・・・・・・。


「やめてくれっ!!何なんだよそれ!!?」


暴れる俺を押さえつける「人外」・・・。

ルアーフが、それが何なのか答える・・・。


「その「人外」の「能力」がね、「血液を放出する能力」なの。・・・これはその「人外」の血液。・・・ねぇ、誓・・・「人間」に「人外」の血液を注入したらどうなるのかな?・・・・・・もしかしたら、私達みたいに長寿になれるかも・・・。」


チクッと、腕に痛み・・・。


「やめっ!!!分かった、分かったから!!!もう逃げない!!ずっと此処に居るから!!!言う通りにする・・・だからやめてくれっ!!!」


必死に叫ぶ俺を見て、あてがっていた注射器を引いたルアーフ。

抱き起こされ、正面に笑顔のルアーフの顔が・・・。


「嬉しい❤これからずっと一緒だよ、誓❤」


そのまま抱き着いてくるルアーフ・・・・・・涙が、溢れて来た・・・。

――――――ドスッ―――。


「・・・・・・え・・・」


腹部に、何かが突き刺さった感触・・・・・・顔を下げる・・・。

触手の様な物が、俺の腹部に突き刺さっていた・・・。

先を辿ると、俺を押さえている「人外」の背中から生えているみたいだった・・・・・・。


「・・・がっあぁ!!ぐぐっ・・・ううぅ!!!」


何かを注入されるのを感じた・・・。

そして、ゆっくりと引き抜かれた触手の先端は、注射針の様になったいた・・・・・・。


「その子の「能力」で得たのが、さっきの注射器の中身なんだよ。」


体が熱い・・・頭が割れそうだ・・・喉が渇く・・・手足が震える・・・血液が逆流している・・・・・・死んで・・・・・・しまう・・・・・・。


「目が覚めた時、きっと――――――」


激しい痛みに苛まれ・・・・・・俺は意識を失った・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


・・・顔に光が当たっているのが分かった。

目を開けると、窓から差し込んでいる日の光が目を襲う。

眩しすぎて、目を瞑り顔を横に反らす。

再び目を開けると、そこは見慣れない場所だった。

女性・・・の部屋の様にも見える。

小物や飾られている食器を見るに、そう思った・・・。

此処は何処だ・・・・・・俺は、何をして・・・。


「・・・・・・そう、だ・・・っ!?」


・・・思い出した、俺はフィアに連れられて、ルアーフに再開して・・・それから・・・・・・。

慌てて自分の体を確認する・・・。

手も足も顔も腕も・・・その他の所も特に異常は無い・・・。


「そういえば、あの時腹部を・・・」


服を捲って、刺された箇所を見て見るが、傷の一つ付いていない。

そんなはずが無い・・・確かに、俺は刺されて・・・・・・その時、ドアが開いた。


「あっ!!誓さん!!目が覚めたんですね!!」


入って来たのは、フィアにクシィ、ミーユ・・・そして、ルアーフ・・・。

俺は反射的に後退り、後ろの壁に背中をぶつけた・・・。


「おはよう、誓。よく眠っていたね。」

「ったく、全然起きないから心配したぞ。」


あんな事をしておいて、何事も無かったかの様に接してくる・・・。

唖然としていると、ミーユがトコトコと俺に近づいて来た。


「誓、七日も寝てた。」


七日・・・・・・という事は、一週間も寝てたのか・・・俺は・・・。

どうりで体が怠いわけだ・・・。

いや、そんな事より・・・・・・。


「・・・俺は・・・どうなったんだ・・・?」


「人外」の血液を注入されて、五体満足でいる・・・。

運が悪いとばかり思っていたが・・・ここにきて運が味方してくれたのか・・・。

・・・・・・しかし、


「これ見て、誓。」


その考えも消え去った・・・。

ミーユが見せて来たのは手鏡・・・・・・そこに映る俺の姿は・・・・・・


「・・・・・・なん・・・だよ・・・これ・・・」


・・・・・・前の俺とは違っていた。

髪は左半分が白く、眼の色も右目だけが白くなっていた・・・。

そう・・・これではまるで・・・・・・。


「・・・・・・「人外」・・・」


目を見開き、頭を掴み、顔を手で覆う。

まだ、夢の中にいるんじゃないかと、そう思いたかった・・・。


「どうやら「人外」の血液を取り込んだ事で、「人外」に近い存在になったんじゃないかな。「人間」と「人外」のハーフって事。体に馴染むまで睡眠状態が続いたみたいだけどね。」


「人間」と「人外」のハーフ?

・・・違う、俺は・・・「人間」で・・・


「良かったな、誓!これで長寿を得て、一緒に居られるな!」


・・・違う、俺は・・・帰りたくて・・・


「じゃあ、お祝いにご馳走でも用意しましょう!たくさん食べて下さいね、誓さん!」


あぁダメだ・・・この姿で戻ったら・・・俺は・・・


「誓とずっと一緒・・・嬉しい。」


違う、俺は、違う違う違う、俺は俺は・・・・・俺は


「誓。」


優しい声だ・・・あの時と同じ、優しい声・・・。

また、助けてくれるだろうか・・・あの時と同じように・・・帰してくれるだろうか・・・。

顔を、上げた・・・・・・。


「これで、たくさんお喋りもできるね❤」


あの時と変わらない笑顔だ・・・嘘偽りの無い笑顔・・・。

俺も微笑んだ・・・・・・。

・・・・・・涙を流しながら・・・微笑んだ・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「人間」は「人外」を害だと嫌い、その命を軽く見る・・・・・・「人間」は悪か?

「人外」は「人間」を嫌悪し、排除しようと考えた・・・・・・「人外」は悪か?

なら俺は何だ?

「人間」でも、「人外」でもない・・・・・・ヒトならざる者、それは



――――――――――――――――――――――――――――――――――――俺だ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヒトならざる者、それは toto-トゥトゥ- @toto-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ